定年・退職のお金/老後の生活設計・ライフプラン

「高齢者向け返済特例制度」で安全快適な住環境を

人生100年時代、自立して長く自宅で過ごすために「自宅を安心・安全・快適に」と考える高齢者が増えています。「バリアフリーにしたいけど老後資金が……」という場合は「高齢者向け返済特例制度」の活用も一計です。リフォーム減税も受けられます。

大沼 恵美子

執筆者:大沼 恵美子

貯蓄ガイド

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「転倒」が救急搬送の8割を占める

 
高齢者が自宅で転んで、骨折して、車いすや寝たきりになるケースが増えている

また今日も救急車がきた……



平成30年版高齢社会白書(内閣府)によると、2016年の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳、健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳でした。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を表します。従って、健康寿命と平均寿命の差がいわゆる要支援・要介護・要看護の期間で、2016年時点では、おおよそ10年(男性8.84年、女性12.35年)です。

65歳以上の人が要介護になった原因のトップは認知症。それに脳血管疾患(脳卒中等)、骨折・転倒、関節疾患が続きます(厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」より)。

「転倒」は高齢者が救急搬送される原因のトップで8割以上を占めています。次に「転落」が1割程度で続きます(東京消防庁「平成28年救急搬送データからみる日常生活事故の実態」より)。これらの事故の8割は「居住場所」――廊下、寝室、居間、階段、風呂場など――で起きています。自宅には多くの危険が潜んでいるのです。
 

手すりで介護予防をしよう

 
転ばぬ先の杖!バリアフリーにしていたから車いすでも家族と一緒に生活できる。

おじいちゃん、退院できてよかったね!



東京消防庁のホームページでは、転倒防止として「段差をなくしましょう」「歩行を補助しましょう(手すりなど)」、転落防止として「階段には握りやすく滑りにくい手すりを設置しましょう」とあります。

75歳以上では事故だけでなく脳血管疾患や関節疾患、パーキンソン病などの病気で要支援・要介護になる人が増える傾向にあります。病気の後遺症や進行状況によっては自宅で歩行器や車いすの利用を余儀なくされることもあります。その場合でもバリアフリーの住宅であれば、介護サービスを利用して自宅で生活を続けることができますし、介護する人の負担も軽減します。

最新の住宅はバリアフリーです。床は段差がなく、廊下や階段、玄関、お風呂、トイレなどには手すりがついており、廊下や出入り口の幅は広く家庭内事故への配慮がなされています。バリアフリーの重要性と必要性を体感して過不足のないリフォームを行うために事前に住宅展示場に足を運ぶのもいいのではないでしょうか。

とはいえ、リタイアして年金で暮らしている高齢者にとってリフォーム資金をポンと出すのはなかなか難しいものです。そんな場合、住宅金融支援機構が直接行う「高齢者向け返済特例制度」がお役に立つかもしれません。
 

連帯保証は一般財団法人「高齢者住宅財団」が

「高齢者向け返済特例制度」とは、「満60歳以上の方が部分的バリアフリーリフォーム工事または耐震改修工事を含むリフォームを行う場合に、毎月のお支払を利息のみとし、借入金の元金は申込人(連帯債務者を含みます。)全員が亡くなられたときに、相続人の方から、融資住宅および敷地の売却、自己資金などにより、一括してご返済いただく融資制度」です(以上、住宅金融支援機構のホームページより)。

金利は全期間固定金利で、2018年9月現在は0.93%、10月1日から1.035%に上がります。融資限度額は(1)住宅部分のリフォーム工事費1000万円、(2)連帯保証人となる一般財団法人「高齢者住宅財団」の保証限度額、のいずれか低い額です。

→リフォーム融資(部分的バリアフリー工事または耐震改修工事)【高齢者向け返済特例】はこちら

融資を受けるに当たっては、事前にカウンセリングを受ける必要があります。また、高齢者住宅財団に保証料(融資額の4%)や保証限度額設定料(3万円+消費税)、保証事務手数料(7万円+消費税)、適合証明書の発行手数料、抵当権設定費用などの経費が必要です。

 

部分的バリアフリーリフォーム工事とは?

 
住宅展示場はバリアフアリーのいいサンプルです。

手すりの位置は、下る時に利き腕で掴める側に設置するのが基本。



部分的バリアフリーリフォーム工事の内容は3つ、「床の段差解消」「廊下および居室の出入口の拡幅」「浴室や階段に手すりを設置」で、段差解消や出入り口の拡幅は次の6か所が対象です。
  1. 高齢者等の寝室のある階のすべての居室(食事室が同一階にない場合は食事室*を含む。)
  2. 便所*
  3. 浴室(出入口の部分を除く。)*
  4. 洗面所* 及び脱衣室*
  5. 玄関(土間の部分を除く。)
  6. 高齢者等の寝室が1階以外の場合、その階のバルコニー(出入口の部分を除く。)
*食事室、便所、浴室、洗面所または脱衣室が2つ以上ある場合は、高齢者等が主として使用するものに限る事ができる。(以上住宅金融支援機構「部分的バリアフリー工事(高齢者返済特例制度)の技術基準の概要」より)
 

ローン型減税で所得税が還付される!

 
ローン減税は税務署で、固定資産税の軽減は自治体で、申告先が異なるので注意しよう!

250万円の2%は5万円。確定申告すれば戻るとか言ってたな。



「高齢者向け返済特例制度」で融資を受けバリアフリーリフォームを行った場合もローン型減税の対象ですので、所得税の税額控除を5年間、固定資産税の1/3減額措置を1年間受けることができます。税額控除の額は次の通りです。
  1. 対象となるバリアフリーリフォーム工事費用(限度額250万円/補助金を除く)×2%
  2. 対象リフォーム以外の工事費用相当分(限度額は(1)と合わせて1000万円)の「年末ローン残高×1%
*年間控除額の上限は12万5000円です。

→バリアフリー改修促進税制(所得税)についてはこちら

 

返済総額VS相続税対策、どちらが重要?

「高齢者向け返済特例制度」は老後資金を減らすことなく住環境を整備することができる魔法のような融資制度ですが、返済期間が不明なので総返済額(支払利息の総額+一括返済する元金)が一般的な返済方法(元利均等返済や元金均等返済)に比べて多くなるだけでなく、死亡時に相続人が元金を一括返済(あるいは土地建物を処分し元金に充当)しなければならない、という問題を持っています。
*死亡を待たずに一括返済も可能です。

反面、相続税制の改正で「小規模宅地等の特例」の適用が厳しくなったことや「相続税の基礎控除額の見直し」などから、相続税対策に利用する価値がある、と考える人もいます。

どちらにしても、相続財産に影響のある制度ですから、利用に際しては専門家にアドバイスを受け、相続人全員でじっくり相談・検討することは必須でしょう。

(※)ローンを組んで住宅リフォームを考える高齢者向けに、1つの方法として「高齢者向け返済特例制度」を紹介しています。その利用を推奨しているものではありません。


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