前のラピードとは、ぜんぜん違う!
インターナショナル試乗会は、スペイン・カタローニャ地方のとある小村を起点に開催された。ちょっとアシを伸ばせば、ピレネー山脈の裾野に届く。カントリーロードとワインディングに恵まれた、絶好の試乗コースが用意されていた。他の2ドアアストンと同様に、ラピードSのドアも、スワンウイングと呼ばれる開き方である。
頭をドアに打ち付けないよう気をつけて、コクピットへと滑り込んだ。景色と匂いは、正にブリティッシュラグジュアリィの世界。従来モデルとデザインは同じ。けれども、選び抜かれたマテリアルの数々にベニアウッドのトリム、贅沢なレザーハイドと、随所に光るアルミニウムなどなど、高級マテリアルをふんだんにあしらった室内は、ながめているだけでも幸せだ。
クリスタルのキーをダッシュセンターの中央押し込む。V12エンジンが盛大なエグゾーストノートを一瞬、あたりにまき散らして、目を覚ました。アイドリングのサウンドは骨太で逞しく、そして乗り手の気分を盛り上げるに十分、ドライ。
ADSのモードをいきなり“トラック”にして、カントリーロードを走り出した。その途端、「前のラピードとは、ぜんぜん違う! 」。そう思った。
ノーズの動きが、断然にシャープ。手応えといい、動かした後に残る余韻といい、自在感が大幅に増した。エンジンとフロントアクスルが一体となって、軽やかに動くから、自信を持ってステア操作できる。その動きは、正にエンジンフロントミッド&ローシップだ。
そのうえ、パワートレインの反応も自然でクイック、力強いから、すべてに余裕をもって対処することができる。スペインに出掛ける直前、日本で試乗した従来型のラピードとはまるで違う、ことによると新型ヴァンキッシュに近いフィールで走るのだから、侮れない。もちろん、新型AW11エンジンのパワーレスポンスによるところも大きい。以前にも増して高回転域まで回るようになり、しかもパンチが続く。決して広いとは言えない見知らぬワインディングロードを、4ドアのいささか長いボディを気にすることなく、思う存分、攻め込むことができたのだから、不満ナシというほかない。
山や谷にこだまする、素晴らしいエグゾーストサウンドに心をうばわれつつ、頼もしいブレーキングと正確なコーナリング、そして豪快なアクセルオンを楽しむ瞬間。これこそが、スポーツカーの楽しみだ。
スポーツサルーンなどではない。ラピードSは、2ドアモデルに決して負けない、リアルスポーツカーだった。