本切り、台場仕上げの由来
ジャケット袖口のボタンホールが開けられている仕様を「本切羽(ほんせっぱ)」あるいは「本切り」などと呼ぶ。内ポケットの回りを表地の延長に仕立てることを「お台場仕上げ」。オーダーメイドやパターンオーダーの普及により、こうしたディテールの名称を知る人も増えたのではないだろうか。ボタンを外すことができれば、袖をまくりあげるときに便利(というか、その必要のある職業の人たちのために考案されたらしい)。台場は、裏地を交換するときに重宝するようだ。どちらも現実場面では頻繁に起こりうることではないため、利点をすぐには実感できないかもしれない。が、そもそも実用性の向上を図った細部には少なからず由来(ショートストーリー)が存在し、それも含めて取り入れることで愛着はより一層深まる。まあ、一種の遊び心のようなものではあるのだが…。
本切りは、ホテルマンが顧客を観察するときのチェックポイントのひとつだと、何かの本で読んだ気がする。靴と袖口を見れば、その人がわかるのだとか。あえてボタンを一つ二つはずして着るのも良いという人がいるがやり過ぎは禁物かも知れない。さて、サイトの本筋に戻ろう。今回は、内装の細部にほんのちょっとでもこだわりを取り入れられたら楽しいのでは、という提案である。そして、参考になるのはやはり高級マンションだ。
床、壁、天井。と、それらが合わさるところ
足元を見れば、その人のファッションに対する思いがわかるように、住宅は巾木にその家のグレードが集約されると言われてきた。しかし、(あくまで想像だが)これは「回り縁や腰壁といった、装飾を利かせた内装がハイグレードであった時代」の名残であるようにも思う。現代はシンプルが重んじられ、ナチュラル指向が大勢を占める。とはいえ、床と壁の合わさる箇所にある「巾木」は、たしかに空間の質感や設計のこだわりが如実に出るところ。著名な高級マンションでは、それ相応のしつらえがなされており、高級インテリアを引き立てる役割を果たしている。
天井と壁の合う場所に施工する「回り縁」などは、昨今マンションではすっかり見かけることがなくなったが、部屋の広さが許せば雰囲気の良い空間に変えてくれる。夜間はもとより、自然光によっても生まれる仄かな陰影の美しさは、丸みを帯びた凹凸の内装でしか生まれないものである。
魂は細部に宿る
分譲マンションでは、部分カスタマイズがその工程にあらかじめ組まれるようになって久しい。青田売りの利点活用だ。さらには新築引き渡しをうけて、すぐにリフォームするケースさえ見かける。賃貸市場でも、壁の色を指定するなどは最近珍しくなくなった。新築分野における設計変更の普及が、分譲賃貸を問わず、一層の「リフォーム欲」を顧客に醸成させているようだ。水回りの参考例として「フォレストテラス松濤」をご紹介しよう。浴室と洗面所の壁は、同一の小さなタイルで統一させている。バスローブをかけるフックやドアノブの形状がお揃いで、どことなくユニーク。設計はコンラン&パートナーズだ。
このマンションは低層であるため、浴室の窓はビューというよりも採光や緑を取り込むことが目的になる。背の高いスリットな形状はまさに最適な選択。上部にご注目。引き上げたブラインドが視界に入らないよう、仕舞うための垂れ壁はとても参考になる。細部のちょっとしたこだわりが見栄えを大きく左右する。
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