豪快加速も健在、フィールはクーぺと遜色なし
フーバーダムをこえ、アリゾナ州に入ると、ルート66である。砂漠の中の、一本道。遠くにみえる切り立った崖や、まばらな植物、朽ちかけたドライブインなどをしりめに、よく整備されているとはとても言えないひび割れた舗装路を、ひたすら進む。「前なんか見なくてもいいねえ」とパオロが言った。それくらい、真っすぐで、信号もなければ、交差点すらない。クルマだって、ほとんど見ない。ここなら、少しくらいGTスピードの実力を試してみてもいいだろうか。周りに“何もいない”ことを何度も確認して、アクセルペダルを踏み込んだ。
軽く踏んでいるあいだは、喉を鳴らすネコのような音が心地よかったものだが、強く踏めば、虎に変身だ。およそベントレーとは思えない、豪快な吸排気サウンドが、まるで空気の塊となってクルマのど真ん中を、前から後へと抜けてゆく。ズドーン、ズドーン……。
加速タイムはわずかに劣っている、とはいえ、体感する加速フィールそのものはクーペのそれにまるで遜色ない。3000回転以上からの、豪快な加速は健在だ。むしろ、下界との敷居が半分ない(オープン)ぶん、スリルがあって速いと思う。風と音が、ダイレクトに感じられるからだ。オープンカーの醍醐味、である。
巨体ロードスターの鼻先を小気味良く
その日はグランドキャニオンまで、とりたててスリリングな道はなかったけれども、翌日、フェニックスを目指す道すがら、森の中のワインディングを駆けることができた。路肩に少しばかり雪が残る状況だったけれども、ウィンタータイヤと電子制御4WDが不安を抑えてくれる。道路から雪と氷の気配が完全に消え去った。パオロに断って、車速をがんがん上げていく。後輪に少し余計に伝達される強大なトルクのおかげで、フロントに積む12気筒の重さをさほど感じさせないのは、クーペのときと同じだ。フロントアクスルのしっかり感も申し分なく、巨体のロードスターの鼻先を、右へ、左へ、小気味よく向け続けることができる。アクセルペダルを踏みすぎないのが肝心、だが、レスポンスよく音と力を発揮するチューンドW12のパフォーマンスに、ついつい右足が先走り……。
そんなとき、強力無比なブレーキパフォーマンスがものをいう。ひょっとして、加速よりも減速の方が気持ちいいんじゃないか。そう思わせるほどの制動パワーと安心の制動フィールがあった。気持ちよく停まることが分かれば、またついつい右足に力が入って……。
気づけば、アッと言う間にフェニックス。街中には、またもや警察車両の影がちらほら……。慌てて気分を引き締めなおし、タウンスピードも快適なベントレークルーズを、ふたたび楽しんだ。