ただの打撲では済まないこともある「転倒」のリスク
転倒予防というと、介護が必要な高齢者向けの話と思われがちですが、うっかり転んでしまうことは誰にでも起きうることです。交通事故などと違って軽く考えてしまいがちですが、思わぬ後遺症が残ってしまうケースもあります。おかしいなと思ったときに早期治療ができるよう、働き盛りの世代も転倒のリスクと注意すべきポイントを知っておきましょう。転倒時に着いた手の骨折が治らない「舟状骨骨折」
転倒した時に咄嗟に手をついて、結果として骨折してしまうことはよくあります。通常の骨折は比較的すぐに治りますが、「手根骨」という手のひらを構成する骨には、個人差があるので、単純X線撮影では骨折の有無の判断が難しい部位とも言えます。手根骨の中に「舟状骨(しゅうじょうこつ)」という骨があります。位置としては親指に近い場所です。舟状骨は骨折が治りにくい骨です。転倒して手をついたとき治りが悪い場合は、舟状骨骨折の可能性がないか疑ってみることも大切です。転倒時の頸の振りで、手の指が動かなくなる「腕神経叢損傷」
転倒時には頭が強く振られることがあり頚部がダメージを受けることがあります。複雑な動きが可能な手の神経は、頸から第一肋骨の間で、アヤトリの紐のように複数の神経が互いに交差して結ばれています。転倒時の衝撃で頸が急激に動くと、交差している部分の神経が引き裂かれて、腕神経叢損傷(わんしんけいそうそんしょう)が起きることがあります。自転車などから転倒して腕神経叢損傷が起きると、両腕の機能を失う最悪の事態になることもあるのです。頭痛から意識喪失「硬膜下血腫」
後頭部の打撲は恐い
硬膜下血腫は、ゆっくり出血した場合、頭痛や意識混濁などの症状がはっきりするのに数日かかることも。泥酔していて本人が転んだ記憶がない場合でも、頭部にコブなどの打撲の跡や裂傷があるときは注意が必要です。家族や勤め先の同僚の方も、数日は様子をみるようにしましょう。
転倒してから物が二重に見える「眼窩底骨折」
転倒の状況がはっきりしなくても、転倒後に物が二重に見えるようになったら、眼窩底骨折の可能性大です。目は固い頭蓋骨に守られていますが、眼窩の底の部分は強度が強くありません。それほど強い衝撃がなくても、転倒時の眼窩底骨折は起こります。転倒後に物が二重に見えた場合、直ちに眼科を受診して下さい。転倒後に近眼が遠視になった!? 「外傷性白内障」
転倒で、顔面、特に眼球に衝撃が加わることがあります。打撲傷で視力には影響しません。ところが、しばらくすると外傷を受けた側の視力が変化し、近視の人が遠視になる……といった変化がおきます。これは、外傷性の白内障の前触れです。水晶体が固くなる過程で一時的に遠視となります。水晶体の中心の変化が強く、進行が早いと視力を維持するために、白内障に対する手術が必要となります。若い世代も知っておきたい転倒予防のポイント
とても初歩的ですが、移動中の靴はなるべく歩行に適したものを選びましょう。特に女性の細身の靴は靴底が滑りやすい上に、足首も全く固定されないタイプのものが目立ちます。勤務先で靴を履き替える事が可能ならば、できれば通勤時は靴底が滑りにくく、足首がある程度固定された靴を選ぶのがよいでしょう。また、階段を下りる時に踏み外したり滑ったりするケースは転倒ではなく墜落と呼ぶことがありますが、複数の部位の打撲、擦過傷、捻挫、骨折を伴うことがあります。急いでいるときこそ階段ではなくエスカレーターやエレベーターを使いたいものですが、階段を使う場合は、せめて手すりを使うようにしましょう。手すりにつかまっていれば、両足と手すりの3点が作る三角形の中に体の重心が来るので、転倒の危険性は激減します。
そして、最も予防できそうなのは飲酒後の転倒でしょう。飲酒量を自制できるかは当人の意志にかかっているので限界がありますが、頭部打撲は非常に怖い事故ですので、できれば転倒するほど酔わないようには注意したいものです。自分に非がなくても他人の転倒に巻き込まれる場合がありますが、これは予測不可能なので対策しようがありません。泥酔者が多いような場所や時間帯は、人ごみでの移動に注意するようにしましょう。