家の中に、1人になれる場所がありますか。
これから家を買う、建てるとなった時、例えば夫婦+子ども2人の4人家族だったら個室はいくつ必要だと考えるだろうか。将来的に子どもには個室を与えるけど、夫婦は一室でいいと考えて、3LDKにするケースも多いと思う。
マンションに住む場合は、ファミリータイプのスタンダードは3LDKだ。3LDK、すなわち家に3つしか個室がないのだから、子どもが小さくて添い寝をする時期は別として、夫婦はひとつの寝室を使い、2人の子どもにはそれぞれ個室を与えるパターンが多いと思う。
夫婦はなぜ一室なの?
夫婦二人で一室を使う方法(夫婦寝室もしくはマスターベッドルーム)はごく自然で当たり前のようだけれど、実は夫が会社で働いて昼間留守なのも、その使い方が成り立つひとつの理由じゃないだろうか。夫婦の共同部屋でも夫が昼間いなければ、その間は妻の専用の部屋となり、1人になりたい時には、そこに籠れば1人になれる。でも、夫が定年退職してずっと家にいるようになったら、どうなるだろう? 一日中、お互いに1人になれる部屋がなくなってしまうのだから、ぎくしゃくすることもあるんじゃないだろうか。
定年後の暮らしのこと
なぜそんな十数年も先のことを心配しだしたかというと、先日「熟年世代の生き方」についてお話を伺う機会があったから。それまで会社人間だったサラリーマンが、60才で定年を迎えた時どうなるか、という内容だった。夫が定年退職して「会社」という居場所を失うと、必然的に家にいる時間が長くなる。それまで居なかった夫に毎日ずっと家に居られると、妻もどうしてよいかわからない。次第に扱いがぞんざいになり、夫は居場所がないことにいたたまれなくなって、平日の昼間に図書館やデパートに通うようになるという。
夫が外出してくれたら、妻もホッとするに違いないだろう。でも、それまで仕事・仕事・仕事で定年退職してやっと時間ができたというのに「自宅に居場所がない」「やることもない」……だから毎日図書館に行くなんて、定年後の人生が20年くらいあることを考えても、悲しすぎる。だから「夫にも個室は絶対に必要だ」「何か趣味を持て」ということだった。
でも、夫が会社を居場所にして数十年、家に戻ってくるからといってスペースを新たに生み出すのは難しい。個室どころか、家の中にお父さんの私物を置くスペースさえあまりない家庭も多いんじゃないだろうか。
会社という居場所がなくなったら
パソコンをしたり、モノを書いたり・・・自分だけのスペースを確保しよう。
定年退職して「こんなはずでは…」と思う前に、少し前から自宅の中に、自分用の個室かそれが無理なら自分専用のスペースを確保する準備を進めておくほうがいいのではないか、と思う。
その居場所に最低限欲しいものは、机、イス、私物を保存しておける収納スペース。調べ物をしたりモノを書くのに、ダイニングテーブルしか場所がない、となるのは避けたい。
適度な距離があったほうがいい
そしてその場所は、妻が主に居場所にしているスペースからは少し離れた場所で、家具やカーテン、ふすまなど、なんでもいいからそれらに視覚的に遮られて、お互いに見えなくなる位置に設けられれば理想的だと思う。こういう風に書くと寂しい気持ちになるかもしれないけれど、実際にその年になった人のお話を聞く限り、どうもそういう距離感が円満の秘訣のようだ。夫が定年退職したあとの生活を、したことが無い身で想像するのは難しい。だから先輩方の経験談を拝聴し、それを参考にいろいろ準備しておけば、イザその時に「こんなはずじゃなかった」を減らすことができると思う。
妻にも居場所をつくろう
夫の居場所だけでなく、妻も同じで家には居場所が必要だと思う。意外と子どもより大人の方が軽く考えられがちな「1人になれる場所」。家の中で長い時間を過ごす人を優先に、家族の1人1人がそれぞれの居場所を作れれば、居心地のよい家になると思う。【関連記事】
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