ある日突然、驚異的に強くなった馬。その理由は?
馬が行うレースだからこそ、競馬ではたびたび「波乱」が起きます。圧倒的優勢と見られていた馬がコロッと負けてしまったり、今までまったく通用しなかった馬が急に大金星を挙げたり。1996年にデビューしたダイタクヤマトという馬も、大金星を挙げた一頭。
ダイタクヤマトが競馬ファンを驚かせたのは、デビューから4年後の2000年10月。人間でいえば100m走にあたる短距離王決定戦、スプリンターズステークス(芝1200m、中山競馬場)において、誰もが「この馬は通用しない」と思っていたなか、勝ってしまったのです。
ファンがそう思うのも無理はありません。同じようなメンバーで行われた春のレースでは17頭中11着という大敗でしたし、スプリンターズステークスの3週間前に行われた前哨戦でも7着。しかもダイタクヤマトは競走馬でいえばベテランにあたる6歳。短期間で急成長するとも考えられません。誰もが信じられないダイタクヤマトの勝利でした。
しかし、冒頭でも述べたようにこのような番狂わせは競馬ならあり得ること。馬が行うスポーツだからこそ、ライバルの体調やレース中のわずかな出来事が結果を大きく左右してしまうのです。言いかえれば、実力が下でもフロックで勝てることは多々あり、仮にそういう馬は大金星を挙げても、その後はまた昔のような成績に戻ることが多い。ですが、ダイタクヤマトは違いました。まるで別の馬になったように次のレースも快勝。その後はビッグレースで軒並み好走を続け、一躍スターになったのです。
なぜ、ダイタクヤマトは急激に強くなったのか。理由は色々あるでしょうが、私は、決してダイタクヤマトが驚異的に成長したわけではなく、実は元から強かったと思うのです。でも、今まではその力を発揮できなかった、あるいは発揮しようとしなかっただけだと考えます。
競馬で大事なのは、決してすべての馬が毎回真面目に全力を出せるわけではないということ。騎手のいうことを聞かなかったり、限界まで力を出そうとしなかったりする馬もたくさんおり、そういう馬にいかにレースの楽しさを教え、真剣に走ってもらえるかが大切なのです。先ほどのバランスオブゲームとは逆ですね。
ダイタクヤマトのスプリンターズステークス勝利は、やはり多分に運が味方したあくまでフロック。でも、その後祝福される中で馬は勝つ喜びを知り、さらに自信が芽生えてきてしまった。「頑張ればいいことあるじゃん」という、いわゆる成功体験。その結果、次のレースからは元々持っていた高い能力をフルに発揮し、全力を尽くすようになったのではないでしょうか。
人間でも、苦手で避けていたことを一度頑張ってやったらうまくいき、それからは自信がついてむしろ得意項目になっていた、なんてことありますよね。私も小さい頃、スイミングスクールで苦手意識のあった背泳ぎを避けるために、「お腹が痛い」とウソをつき続けましたが、一度やってみたらうまくいって、それからは先生に見せつけるように背泳ぎばかりしていました。ダイタクヤマトの変身も、それに近いと思うのです。
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