波乱を起こす気分屋たちの戦法「逃げ」
「逃げ」とは、スタートから猛ダッシュで先頭を奪い、終始レースを引っ張るスタイルで、このような形でレースをする馬を「逃げ馬」といいます。逃げ馬の多くは、とにかく集団の先頭にいたい気性の持ち主ですが、なかには、他の馬が近づくと怖がるため、逃げの戦法を選択している馬もいます。いずれにせよ、マイペースで先頭をキープしている時は上機嫌で、1頭でも他の馬に抜かれると不機嫌になる気分屋が逃げ馬の特徴です。
そのため、同じレースに逃げ馬が複数いると大変。先頭の奪い合いをしているうちに、早々とバテてしまうことがあります。
だからこそ、逃げ馬の存在は魅力的であり厄介。快適に先頭を走り続けると思わぬ力を発揮し、ゴールまで他馬が追いつけないこともありますが、ちょっと邪魔が入ると途端にやる気をなくすことが多いため、レースによって成績がバラバラ。つまり、今までの成績がアテにならないことが多く、昔から「番狂わせを起こすのは逃げ馬」ともいわれます。
2004年に行われた天皇賞・春というビッグレースでも、前評判の低かったイングランディーレという馬が、競馬では圧勝といえる、2着に1秒以上の差をつけての逃げ切り。スタートから自分のペースで先頭をスイスイ走り、さらに他の馬がまったくイングランディーレに注意を払わなかったため、結局ゴールまで上機嫌のまま先頭で駆け抜けていきました。
ちなみに、評価の低い逃げ馬が大金星を挙げた時の「シーン」とした競馬場の雰囲気も、見どころのひとつです。
真面目な優等生の象徴といえる「先行」
「先行」とは、レースの前半から集団の前方に位置し、ゴール前で抜け出す戦法で、このスタイルを得意とする先行馬は、競馬界における「優等生」とされています。というのも、日本の競馬は10~18頭ほどでレースを行うのですが、集団の後ろに位置すればするほど、追い上げたいポイントで前の馬が邪魔になってしまいがち。その点、先行馬は前の馬の不利を受ける可能性が低いんですね。また、逃げ馬のように先頭に立たないと機嫌を損なうわけでもないので、終始自分のペースを守って走れます。
とはいえ、当然どの馬でも先行できるわけではなく、最初から最後まである程度のスピードを持続できる能力や、スタートから集中して走る真面目さが必要になるんですね。
「日本の競馬史上もっとも強かった馬」として必ず名前の挙がるシンボリルドルフは、1983~1986年にかけて、多くのレースを先行策で制した名馬。能力がずば抜けて高い上に、レースぶりも完璧だったことから、「競走馬の完成形」にもっとも近い馬として、その強さは語り継がれています。
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