いまでは永住志向が浸透し、住み替えを前提としない住まい探しが主流となっている。
この言葉には想定賃料を基礎とした「利回り」を物件評価の判定基準に据え、「収益性」という切り口で資産価値の多寡を見極めてほしいという意味が込められています。一言でいえば、実需でありながら投資的な視点の重要性を説いているのです。
昭和の高度経済成長期には高い成長率によってマイホームの価値は右肩上がりで上昇しました。そのため、ローンの残債が売却額を上回る「担保割れ」の心配はなく、多くの人がスムーズな住み替えを実現できました。当時、「一生涯、その家に住み続ける」=「終の棲家」という発想は必要なかったのです。
ところが、バブルが崩壊し、同時に土地神話も“過去のもの”となったことで、夢のマイホームは流動性(売却や賃貸のしやすさ)を失い、自由な住み替えは困難となりました。その結果、家を買う人は永住を想定し、生涯、住み続けるという覚悟を持って住まいを選ぶ必要に迫られました。
こうした心理の変化は数字にも表れており、国土交通省が分譲マンション居住者を対象に定期的に実施している「マンション総合調査」を見てみると、平成5年度(1993年)から同11年度(1999年)にかけて永住意識が逆転しているのが分かります。資産バブルの崩壊(1991年前後)を契機に、マンション居住者の住まいに対する考え方が180度、変わったのです。平成20年度には2人に1人(49.9%)が永住を希望するまでに、その割合を高めています。多くの人がマンション購入を「永住するつもり」で決断するようになりました(下図参照)。
住み替えを前提としない住まい探しが主流に わが家を貸すにはキケンがいっぱい
それ以降、「永住志向」は不動のまま受け継がれ、現在も住み替えを前提としない住まい探しが主流となっています。ライフステージの変化に合わせてステップアップするというスタイルは実現しにくい市場環境となっています。皮肉にも、前述した「売りやすい・貸しやすい物件を選べ」といったフレーズが市民権を得るようになったのは、「自由に売れない」「簡単に貸せない」という現実の“裏返し”に他ならないのです。現在、いざ持ち家を貸そうとしても、確実かつ安定的な家賃収入の獲得は容易ではありません。経験のない素人オーナーにとって、わが家を貸すという行為は常にリスクと隣り合わせです。トラブルなく賃貸経営を実現させるには、内在する危険を把握しておく必要があります。「しまった。こんなはずでは……」という失敗に陥っては後の祭りなのです。
そうならないためには、しっかりと賃貸借取引の注意点を把握しておくことが肝要です。次ページで紹介する3つのキケンを認識し、慎重な行動を心がけることが成功への近道となります。
今の家を貸す場合の3つの「キケン」―― 次ページで詳しく解説します。