なんと4時間26分にわたる貴族たちの人生譚!
まずご紹介するのは、ポルトガルとフランスの合作による『ミステリーズ 運命のリスボン』。ヨーロッパ映画界で名匠と呼ばれる監督、ラウル・ルイスが演出した4時間26分の大作です。修道院で生活するジョアン(ジュアン・ルイーシュ・アライシュ)は、名字がない少年。彼はディニス神父(アドリアヌ・ルーシュ)の計らいで実母アンジェラ伯爵夫人(マリア・ジュアン・バストゥシュ)に会えることに。アンジェラは、結婚前に別の男の子供を産んだことを伯爵に知られ、屋敷に軟禁されていました。神父はアンジェラを連れ出しジョアンと再会させて、3人で隠れ家で生活をすることに。そこでジョアンは、母の悲恋と父の悲しい過去を知ることになります。一方、アンジェラの夫である伯爵は、重い病で伏していました。アンジェラの汚名を晴らすために、伯爵のもとを訪れたディニス神父は、そこにいた修道士に、自身の驚くべき生い立ちを知らされるのです……。
ポルトガル、フランス、イタリア、ブラジル、舞台は世界へ!
4時間26分という長尺もさることながら、この映画はただものじゃありません。普通、物語には主人公がいて、その人生を観客である私たちは追いかけていきます。主要人物とそうじゃない人というのは、ほぼ明確ですよね。でもこの映画は主役が流れるように変化していくのです。ジョアン少年が主役と思ったら、彼の両親の物語になり、それが終わってジョアンに戻るかと思ったら、ジョアンのそばにいた神父の物語に! そのようにひとつのエピソードに関係していた人が次のエピソードの主役となり、その家族や恋愛が語られる。そうやって物語が枝葉のように分かれていき、気が付けば「あれ?ジョアンは?」と、自分の中で主役だと思っていたジョアンが迷子になっているのです。それ故に、舞台もポルトガルから始まり、フランス、イタリア、ブラジルと広がっていき、そのスケールの大きな世界観にビックリ。すべてが規格外の映画なのです。
でも、人生を過去や祖先まで紐解いていくと、ずっと同じ場所で生活していたわけはなく、いろいろな場所を旅のように歩んできたのだろうなと……。この監督は小さなエピソードや描写を積み重ねているわりに、人間を見る目は俯瞰。もう神様のごとく上から人々をじっと見て、本作を作り上げたのかもしれません。壮大な人生絵巻と言っても過言ではない映画です。
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