小林真人さんの大岡山のS邸は、建坪24坪、細い未舗装の私道を入ったところに建つ木造住宅です。外観はちょっとメタリック調のシルバーですが、中は上も下も、周囲はすべてシナ材一色の木造。一歩足を踏み入れただけでぷんと木の香りがします。なんとなくやわらかい、あたたかみに満ちた空間ですね。
1階の玄関を入ると、左手に直線の廊下。しかし、壁面には書棚がしつらえられ、座ってちょっとしたデスクワークができるようになっています。
「じつは、ここ、家族がそろって“勉強”する共通のスタディルームなんですよ。施主のお子さんはまだ生まれたばかりと3歳なんですが、いずれ勉強机が必要になりますよね。いっぽう、ご夫妻はご自身の書斎がほしい。ならばいっしょに机に向かうスペースをつくればいいんじゃないかと考えたわけです」
と小林さんは言います。
なるほど、これは発想の転換かもしれません。親子がみんな机を並べて“勉強”をする。そんな時間があってもいいような気もします。考えてみれば、みんながそれぞれ自分の空間に閉じこもってするのが「お勉強」でした。閉ざされた空間じゃないと集中できないという人もいるでしょうが、図書館だって職場だってけっこう開かれた場所ですよね。ほんとは自分の部屋にこもってしまうとかえって集中できなかったりするものなのかもしれません。また、こういう場所でお互いに情報交換をしながら学べば、かえって効率が高まるかもしれない。お勉強も好きになるかもしれない。いろんな意味でおもしろい実験だと思います。
さて、1階はこのスタディルーム以外には大きめのベッドルームと浴室と納戸。納戸とベッドルームとの仕切が取り外せるようになっていて、いずれ子どもたちが成長した際には納戸のスペースを少し広げて子ども部屋に改装することができるそうです。このへんは家は家族に合わせて成長すればいいという小林さんの主張どおりですね。
いっぽう、2階は大きなテラス付きのリビングと、開放的なキッチンです。南側につくられたデッキのテラスに面して開かれた天井いっぱいまでの開口部はスカッと突き抜けて気持ちがよく、天井まで合板の木を使った木の箱状のリビングはどこかの山荘にやってきたような解放感を生み出しています。思い切って2階を全部、家族のための“集いの場”にしてしまうという思い切りのよさは、やはり建築家ならではの発想といえるでしょう。お子さんがまだ小さいということもあるのでしょうが、そんな時期を大切にして家族がひとつになって過ごすという発想のこの家は、住宅建築というものがどこまで“いさぎよく”よぶんなものを切り捨てられるかにかかっているかを実証しているように思います。
■小林真人建築アトリエ:http://www2u.biglobe.ne.jp/~mahito/