3.11で倒壊したカフェを離れて
「ちどりの売店」に並ぶ笠間の陶芸家 桑原典子さんのうつわ。
ちどりは黒澤聡・みゆき夫妻が営む、豆腐、おから、豆乳料理を提供するカフェ。食事の充実したおいしさもさることながら、情趣豊かな空間づくりが訪れる人々を魅了します。
食材や雑貨の販売スペース「ちどり売店」。作家のうつわや珈琲豆、クッキー、アート作品などが並びます。
入口で靴を脱ぎ、スリッパで店内へ。「ちどりのおみやげ」が並ぶ販売コーナー「ちどりの売店」の雑貨たちの魅力的なたたずまいに視線を奪われますが、それは帰り際のお楽しみにとっておくことにして、着席。
カフェは2部屋で構成されており、手前の部屋には家具作家chakka-chakka.jp による白木の家具が並んでいます。
手前の部屋は若草色のキャビネットがアクセント。
奥の部屋は一転して、古びて傷ついたもの、錆びたものが集められた褐色の世界。その多くは、東日本大震災によって倒壊した笠間のカフェ「sovasova」で使用されていた家具たちです。
かつて店主の黒澤さん夫妻は、陶芸の街・笠間で地域のアーティストたちと親交を深め、大谷石倉庫のsovasovaを人々とアートがつながりひろがっていく舞台として大切に育ててきました。
しかし2011年3月11日、倉庫は倒壊して修復不能な状態となり、営業終了を余儀なくされたのです。
奥の部屋は褐色の濃淡。窓辺には錆びた鉄のランプシェード。
笠間市から東へ約35km。2011年秋、黒澤さん夫妻はひたちなか市で衣料品倉庫として使われていたという古い平屋に出会いました。
その空間には、何かしらひとめで通じる気配が漂っていたのでしょう。夫妻は震災後ガレージに預けていたsovasovaの什器備品を活かして、そこで新しいカフェの準備を始めたのです。
キャビネットの中の灯台にも、波千鳥の姿が。画家johnnyxxxさんの作品。
2012年2月に晴れて開店の日を迎えたちどり。入口を飾る白いのれんには、可憐な波千鳥の文様がひとつ。
波千鳥には古来から子孫繁栄、「人生の大波小波を乗り越える」という縁起があり、健やかな日々とご縁が続いていきますように、sovasovaよりも長く付きあえる店になりますように、との願いが込められています。
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