カロリー0(ゼロ)のダイエット甘味料の秘密は、糖アルコールにあります
キーワードは「糖アルコール」です。
「キシリトール」を使った虫歯にならないガムとか、カロリー0(ゼロ)の甘味料「エリスリトール」の名前は知っていても、「糖アルコール」という言葉はついぞ聞いたことがない人がほとんどではないでしょうか。もともとが化学用語ですから無理もないのですが、米国でもどうやら同じような状況です。
FDA(米国食品医薬品局)が、体重に影響するいろいろな炭水化物の理解度を調べる消費者リサーチを行ったことがあります。
それによると、
□ 56%の消費者は糖アルコール(sugar alcohols)という言葉を聞いたこともありませんでした。
□ 20%の消費者は糖アルコールという言葉は聞いたことがあるけど、体重に対して砂糖(スクロース)と同じような効果/作用があるかどうかは答えられませんでした。
□ 10%の消費者は糖アルコールという言葉を聞いたことがあり、体重に対しては砂糖と同じ効果/作用を与えると答えました。
□ 残りの14%の消費者は糖アルコールという言葉を聞いたことがあり、体重に対しては砂糖と異なる効果/作用があると答えました。
どうやら、米国でもほとんどの消費者は栄養表示の糖アルコールのことを正しく認知していないようです。
日本でも、エリスリトールとかキシリトール、還元麦芽糖水あめ(マルチトール)などと、むき出しの名称が成分表に出ていますから、消費者にはその正体が分からないかも知れません。
糖アルコールとは
糖アルコールとアルコール飲料は、どちらもアルコールという名称が付いていますが似て非なるものです。糖アルコールにはエタノール(エチルアルコール)は含まれていません。つまり、糖アルコールは「甘いお酒」ではなく、砂糖と同グループの甘味料なのです。混乱の原因は-OHという基にあります。無機化合物では-OHはヒドロキシル基(水酸基)で塩基ですが、有機化合物では塩基とはいいません。炭化水素についた場合はアルコール基というのです。アルコール基には甘味があって、1個付いているエチルアルコールはさすがに甘いとは言えませんが、ブドウ糖(以下グルコース)や果糖(以下フラクトース)には5個も付いているのでとても甘くなります。実はブドウ糖や果糖は5価アルコールと分類することも出来るのです。
グルコースやフラクトースのような単糖類(これ以上シンプルにならない基本の糖)の、還元性を示すカルボニル基(>C=0)を還元(水素添加)すると、アルコール基(>CH-OH)に構造が変化して特性が変わります。これが糖アルコールです。
例えばグルコース(C6H12O6)を還元するとソルビトール(C6H14O6)という糖アルコールになり、甘味度はグルコースと同じですが、体が吸収するエネルギーはグルコース4kcal/gに比べて2.5kcal/gと低下します。
グルコースもソルビトールも、物質として完全燃焼して得られるエネルギーは4kcal/gと同じですが、ソルビトールの小腸での吸収率はわずか25%、残りの75%は大腸での発酵による短鎖脂肪酸によるエネルギー吸収と考えられています。
私たちの体は脂肪酸からグルコースを生成する代謝経路を持ちません。そのため、グリセミック指数(後述)はグルコースを100とすると、ソルビトールは9と極端に小さな値になります。つまり、グルコースをソルビトールにすると、甘さが同じでカロリー半減、血糖への影響もとても少ない甘味料になります。
糖アルコールは自然界の野菜や果物、海藻などに含まれていますが、工業的にはグルコースはデンプンからグルコース生成酵素によってつくられ、このグルコースを還元(水素添加)することで上記のソルビトール、酵素異性化によってフラクトース、発酵によってエリスリトールなどがつくられています。
甘味だけならば、人工甘味料(アセスルファムカリウム、アスパルテーム、サッカリン、スクラロース、ネオテームなど)でソフトドリンクが作られていますが、人工甘味料には容積や「かさ」、ボディがなく、熱や酸に弱いのでスイーツの砂糖の代替にはなりません。
砂糖は甘味の質、食品の加工適性などがとてもすぐれた糖質ですが、消費者による低甘味、低糖、ヘルシー志向を受けて、バイオ技術の進歩と共にさまざまな糖質が開発されてきました。特に糖アルコールは甘味が自然で、低カロリー、スイーツの砂糖の代替に適し、インスリンの節約や血糖上昇の低減などで糖尿病患者がもっと利用していい糖質です。
糖アルコールのグリセミック指数とは
グリセミック指数(以下GI)とは、同量の糖質を含んだ食品同士でも、食品別・形状・加工度などによって血糖上昇のカーブが異なるので、基準となる同量の糖質食品、例えばグルコース水溶液、白パン、白米などの血糖上昇曲線と試料のものを比べて、双方の曲線面積の比で評価したものです。通常は最も血糖上昇の高い曲線を描くグルコース(ブドウ糖)を100として(基準値)表わします。そのプロトコルに関心のある人は日本Glycemic Index研究会のページをご覧ください。下記の糖アルコールのGI値は、英国の栄養学者Geoffrey LiveseyがNutrition Research Reviews(2003)16,163-191に発表した論文からの引用です。なお、マルチトールシロップはメーカーによって内容が異なるので削除してあります。このGI値は過去に行われた多数の糖アルコール研究論文からの平均値です。
糖アルコール GI(グルコース=100) カロリー/g
エリスリトール 0 0.2
マンニトール 0 1.5
ラクチトール 6 2
キシリトール 13 3
ソルビトール 9 2.5
イソモルト 9 2.1
マルチトール(結晶) 35 2.7
GIの区分の中で、GI値0-40までの食品はvery low GIと評価されています。つまり、血糖上昇効果はとても低いのです。当然ながらインスリンの必要量もわずかです。
ちなみに砂糖のGIは65、フラクトース(果糖)は23です。シドニー大学(オーストラリア)もGI研究で世界をリードしていますが、同大学のhttp://glycemicindex.comによるとマルチトール(maltitol)のGIは26と更に小さくなっています。
上記の論文では糖アルコールのGIは、メタ分析で1型糖尿病患者・2型糖尿病患者でも健常者と同じようになることが確認されています。人工膵臓をつけた1型糖尿病患者に糖アルコールを投与して、必要なインスリン量を判定するテストまで行われており、患者としてはなんともうれしい話です。
エリスリトールとマンニトールがGI値が0(ゼロ)です。つまり、血糖を上げません。いずれも甘味度は砂糖を100とすると70ですから十分にあります。
エリスリトールは4炭糖ですから分子が小さく、小腸で90%吸収されますが、代謝されずに尿中に排泄されます。残りの10%が大腸で発酵するのでわずかなカロリーがあります。
マンニトールは小腸で25%吸収されますが、体の組織では代謝ができないのでそのまま尿中に排出、残りの75%が大腸でゆっくりと発酵するので1.5kcal/gのカロリーがあるとされています。
糖尿病患者にぴったりの糖アルコールの特性を活かしたスイーツがたくさんあるといいのですが、なかなか見つかりません。欧州にはエリスリトールのチョコレート(GI・2)やイソモルトのチョコレート(GI・14)もあるのですが……。ならば、自分でつくる(つくってもらう)しかありません。皆さんもぜひ挑戦してみてください。