反応や動きがドライバーの気持ちにリーズナブル
640iは最高出力320ps/最大トルク450Nmの3リッター直6直噴ターボエンジン、650iは450ps/650Nmの4.4リッターV8直噴ターボを搭載。ステップトロニック付き8ATが組み合わされる
ガソリンエンジンの640iから試した。試乗車はインディビジュアルインテリアで、ホワイトとブラウンのコーディネーションが、とてもまぶしい。専用外装色であるマットブラウンとの相性も抜群で、これが恐らくコミュニケーションカラーになる予定。インディビジュアル仕立てがメインイメージとなるのも、グランクーペが初めて、である。それだけ、インディビジュアルに力が入っているということだ。
プレミアムセグメントでは、今後、これまで以上に、カスタムメイドへの取り組みが進むと思われる。そうでもしなければ、数多ある成熟市場において利益を得ることがますます難しくなってくるからだろう。日本のマーケットなどは特にそうで、量より質の時代が、やってきたといえそうだ。
走行状況に応じてショックアブソーバーを制御するダイナミック・ダンピング・コントロールを標準装備。駆動系を統合制御しドライバーの好みに合わせて5パターンの走り(コンフォート プラス、コンフォート、スポーツ、スポーツ プラス、ECO PRO)が選択できるドライビング・パフォーマンス・コントロール・スイッチも備わっている
走り出しての第一印象は、“クーペより扱いよさそう”、だった。もちろん、街中を転がしているような段階では、ほとんど同じにしか感じない。けれども、大きめの交差点を曲がってみれば、腰の回転がとても自然で、鼻先の動きに余裕があると感じたのだ。
そのままカントリーロードに入ってみると、その印象がいっそう強まった。クーペよりも鼻先の動きがはっきりと、優しい。決してダルというわけではない。反応や動きがドライバーの気持ちにリーズナブルだから、ハンドリングのリズムを取りやすい。適度なパワフルさとあいまって、細い道でもあの図体を持てあますということがなかった。滑りやすいシシリーの道では、スポーツ+モードはキケンだとしても、スポーツモードあたりで、ちょっとした楽しみだってある。“慣れやすさ”という点では、クーペやコンバーチブルよりも確実に上だった。
もちろん、高速クルージングも、より安定志向にあった。コンフォート+モードやエコPROモードと使って130km/hくらいで流していると、ついつい運転していることを忘れてしまい、日本に残してきた用事や、今夜のディナーのメニューなど、いろんな些事が次から次へと頭に浮かんでくる。ときおり迎える段差を、トタントタンと心地よく超えるくれるたびに、コイツはよくできたGTカーだなあ、と感心しつつも、思考はすぐにまた、他へと移ってしまう。よほどリラックスして運転していたということだろう。
アイドリングストップ機能やエネルギー回生システムを標準採用する。燃費(EUテスト・サイクル)は640iが100kmあたり7.7~7.9リッター、650iは8.6~8.8リッターとされる。650iにはオプションで4WDシステム(xDrive)も用意された
面白いことに、ガソリンよりも、同じく3リッター直6のディーゼルターボを積む640dの方が、乗っていてずっと“官能的”に思えた。たしかにノーズは重めだし、エンジンフィールにキレはない。けれども、最大トルクが630Nmもあって、とってもパワフル。さらに、キレこそないけれども、実はエンジンサウンドに古典的な迫力があって、アクセルを踏み込むことが楽しい。もしボクがヨーロッパ在住の人ならば、迷わずディーゼルを選ぶに違いない。