骨・筋肉・関節の病気/その他の骨・筋肉・関節の病気

上方肩関節唇損傷の症状・診断・原因・治療

上方肩関節唇損傷はスポーツ、外傷などで発生する肩関節の軟骨の損傷です。症状が日常生活に支障となる場合、内視鏡下関節唇修復術が必要となります。手術の後は長期間のリハビリが必要となります。

井上 義治

執筆者:井上 義治

形成外科医 / 皮膚・爪・髪の病気ガイド

上方肩関節唇損傷(SLAP損傷)とは

「上方肩関節唇損傷(じょうほうかたかんせつしんそんしょう)」とは難しい病名ですが、肩関節を構成する肩甲骨に付着する軟骨「関節唇」が通常外傷、スポーツなどにより損傷し、軟骨に裂け目が生じる病態です。英語では、SLAP (superior labrum anterior and posterior lesion)と呼ばれます。

以下の記事は実際の患者さん(42歳・男性・Aさん)のケースを元に、その体験を加工して記載してあります。Aさんは上方肩関節唇損傷を発症しました。上方肩関節唇損傷の症状、診断、治療、手術、手術費用などの理解を深めて下さい。

上方肩関節唇損傷とは

肩関節を構成する肩甲骨に付着する軟骨を「関節唇」と呼びます。上腕骨と肩甲骨の間に存在し、肩関節を安定させつつ関節の可動性を保つ機能を持っています。
肩関節

肩関節の構造


丸くスムーズな形態が正常な関節唇ですが、いろいろな原因でこの軟骨が断裂した状態が上図の左下に示してある上方肩関節唇損傷です。

上方肩関節唇損傷の症状

Aさんは20011年3月、バイクを運転中に自動車と接触し転倒しました。その際に左肩をアスファルトに直接強打しました。救急車で近くのクリニックに搬送されました。

Aさんの症状としては左肩痛、肩関節の挙上障害でした。

またAさんに見られなかった症状として、夜間就寝中の肩関節部の不快感、野球選手などでは投球動作中の疼痛、投げる球のスピードの低下などの症状が上方肩関節唇損傷にはあります。

上方肩関節唇損傷の原因

SLAP損傷は野球選手で比較的最近注目されている病態です。野球以外のスポーツでも肩関節を酷使するやりなげ、円盤投げなどの選手に多く発生します。それ以外では交通事故などによる外傷、肩関節脱臼に伴う損傷などが原因として挙げられます。

上方肩関節唇損傷の診断 

■単純X線(レントゲン)
20011年3月にAさんがクリニックで撮影した単純X線写真です。

肩関節

 左肩関節単純X線像。異常を認めません。


単純X線写真は放射線被爆量も少なく、費用もわずか。その場で撮影も終了し当日説明を受けられるので、整形外科では必ず施行します。この画像では特に異常は認められません。

次にMRI撮影の予約、投薬(鎮痛剤、胃薬)の指示が出ました。クリニックの費用は初診、3割負担の健康保険で3,000円ほどでした。

■MRI
Aさんの場合、MRIは専用の病院で撮影を行いました。
MRI

     肩関節MRI像。断裂した軟骨が診断可能。


MRIは磁気を使用して人体の断面写真を作成する医療用機器です。被爆がないのが最大の特徴です。欠点は費用が約1万円程度と高額な点、狭い部屋に15分間ほど閉じ込められて、騒音が強いことです。脳外科の術後で体内に金属が残っている人、心臓ペースメーカー装着の人、閉所恐怖症の人などはMRI検査が無理なので、CT検査を行います。CT検査の費用は5,000円程度で、MRIより安くなりますが、被爆があります。このMRI画像では断裂した関節唇が診断されました。


上方肩関節唇損傷の治療・リハビリ

■安静
外傷直後などの場合、安静位を保つことで障害の悪化を防ぐことができます、必要に応じて肩関節を固定する装具を使用します。

■鎮痛薬
ボルタレン、ロキソニンなど非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDと省略されます)を使用します。

ボルタレンは、1錠15.3円で1日3回食後に服用します。副作用は胃部不快感、浮腫、発疹、ショック、消化管潰瘍、再生不良性貧血、皮膚粘膜眼症候群、急性腎不全、ネフローゼ、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、肝障害、ライ症候群など重症な脳障害、横紋筋融解症、脳血管障害、胃炎などです。

ロキソニンは、1錠22.3円で1日3回食後に服用します。副作用はボルタレンと同様です。

どちらの薬でも胃潰瘍を合併することがありますので、胃薬、抗潰瘍薬などと一緒に処方されます。5年間、10年間の長期服用で腎機能低下などの副作用がありますので、注意が必要。まれに血液透析が必要となる場合もあるので、漫然と長期投与を受けることはできる限り避けて下さい。

鎮痛薬の問題点は数ヶ月以上の服薬で胃腸症状、腎機能低下が高率に発生しますので、急性期を過ぎたら主治医と相談し、減量ないし休薬を考えましょう。

Aさんは薬で痛みが軽くなったものの、関節可動域の制限は改善しませんでした。

そのため手術治療を考慮して、クリニックの紹介で総合病院の整形外科外来を受診しました。
Aさんの場合、内視鏡下関節唇修復術を受けました。

■内視鏡下関節唇修復術
ある程度損傷した軟骨は自然に治癒することはないと考えられています。そのため症状が生活するうえで支障となる場合、手術を選択することとなります。野球選手などの場合、選手生命にかかわる障害となることが多いので手術となる方が多いようです。
肩関節の手術では通常内視鏡を使用して手術を行います。
内視鏡下手術

内視鏡下手術の場合、傷跡は短くなります。


Aさんの場合、全身麻酔で手術時間1時間38分間でした。

軟骨

      断裂した軟骨が内視鏡で観察されます。




糸

      断裂した軟骨を縫合する糸を肩甲骨に固定します。



縫合糸

     縫合糸をしばると軟骨の断裂が修復されます。


Aさんは術後の経過も良好で入院7日間で退院となりました。
健康保険を使用し3割負担で15万円の費用でした。術後の痛みもそれほど強くなく、Aさんは満足しています。

■上方肩関節唇損傷のリハビリ
リハビリは安静期間、関節の可動域を増加するステップ、筋力を回復させる期間、スポーツを再開しながらもとの能力に近づけていく期間に分かれます。専門的なリハビリが長期間必要となります。
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