麻薬、副作用、依存症、中毒

痛みを抱えた患者さんが医療麻薬を服用しても、依存症や中毒にはなりません

麻薬の代表であるモルヒネ。一般的にモルヒネは、2つの依存を形成します。薬が欲しくてたまらないという強い精神依存と、薬物が切れると体や精神に不調をきたす身体依存です。しかし、医療用麻薬モルヒネのページで、患者さんは依存にならない、とお話ししました。今回は、痛みに悩む患者さんの脳で起こっている、依存にならない脳の仕組みについて詳しく説明します。

精神依存の形成機序

モルヒネやコカイン、覚せい剤の成分アンフェタミンなどの薬物は、強い精神依存を形成します。精神依存とは、薬物の乱用で、薬が欲しくてたまらないという渇望状態となり、やめようと思ってもやめられない、さらに薬物乱用を繰り返す状態です。

精神依存は、中脳辺縁系(ちゅうのうへんえんけい)にある脳内報酬系(のうないほうしゅうけい)が関与しています。特に、脳内報酬系のドパミン作動性神経が重要な働きをします。ドパミン作動性神経が興奮すると、ドパミンが放出され、脳の奥にある側坐核のドパミン受容体に結合します。すると、脳は、興奮、多幸感、快感などを得られるという仕組みです。依存を形成するといわれる全ての薬物に、側坐核のドパミンが関与する、と考えられています。
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痛みのない状態では、ドパミン神経はGABA神経の抑制を受けています


通常、ドパミン作動性神経は、過剰なドパミンによって脳が興奮しすぎないよう抑制を受けています。ドパミン放出を抑制する神経が、γアミノ酪酸(GABA)作動性神経です。GABA作動性神経には、モルヒネなどが結合する受容体、μ受容体が豊富に存在しています。μ受容体に結合するモルヒネなどの薬物を投与すると、GABA作動性神経の働きが抑制されます。その結果、GABA作動性神経による抑制のタガが外れたドパミン作動性神経からはドパミンが大量に放出、精神依存を形成すると考えられています。
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痛みが無いのにモルヒネを服用すると、GABA神経の抑制が外れ、ドパミン神経からドパミンが放出され、精神依存を形成します



身体依存の形成機序

脳は、興奮と抑制の微妙なバランスで成り立っています。精神依存を形成する薬物には、脳や脊髄を刺激するタイプの薬と、抑制するタイプの薬があります。身体依存は、主に脳を抑制するタイプの薬、マリファナ、シンナー、アルコール、ヘロインなどで起こります。脳の抑制作用を持つ依存性薬物を服用すると、脳は強く抑制されます。それでも脳は正常に働こうとして、代償的に自ら興奮機能を高めます。脳が頑張って興奮状態を作った状態で、抑制タイプの依存性薬物の服用をやめたり減量すると、脳内バランスが崩れ、脳の興奮状態だけが残ります。そのために、手の震えや幻覚、せん妄などの退薬症状が出現します。

医療用麻薬モルヒネで依存が形成されないワケ

痛みが無い人がモルヒネを服用すると、精神依存と身体依存を起こします。では、なぜ、痛みに悩む患者さんでは、モルヒネを服用しても依存にならないのでしょうか?

長期間痛みに悩む患者さんには、炎症がある疼痛と神経が障害されて起こる疼痛、2つの痛みタイプがあります。これらの痛みを抱えていると、内因性オピオイドと呼ばれる、自分で作る鎮痛効果物質が体内で放出されます。内因性オピオイドは、生理的危機状態、生体に危機が迫ったときに放出される物質。脳は、慢性痛を心身のピンチと判断して、内因性オピオイドを産生、放出します。内因性オピオイドには、エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン、エンドモルフィン等があります。

炎症がある慢性疼痛の場合

炎症性の慢性疼痛がある場合、内因性オピオイドの一種であるダイノルフィンが放出されています。ダイノルフィンは、中脳辺縁ドパミン神経に作用し、その働きを抑制的に調節します。すなわち、精神依存を形成する脳内報酬系のドパミン作動性神経を抑制し、モルヒネを服用しても、ドパミンが過剰放出されることはありません。側坐核のドパミン受容体に結合するドパミンが大量放出されないので、精神依存は形成されません。
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炎症性慢性疼痛があると、内因性オピオイドの一種、ダイノルフィンが放出されます。ダイノルフィンは、モルヒネを服用しても、ドパミン神経を活性化しません



神経障害性の慢性疼痛の場合

神経障害性の慢性疼痛がある場合も、内因性オピオイドの一種、βエンドルフィンなどが持続的に出ています。βエンドルフィンは、GABA作動性神経に存在するμ受容体に作用します。モルヒネが結合すべきμ受容体が、すでにβエンドルフィンによって持続的に占拠され、μオピオイド受容体の機能低下が起こっているため、たとえモルヒネを服用しても、GABA作動性神経の抑制が起こりません。その結果、慢性疼痛下では、モルヒネを服用しても、GABA作動性神経によるドパミン作動性神経の抑制効果は薄れず、精神依存を形成しないのです。
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神経障害性疼痛では、内因性オピオイドであるエンドルフィンが放出されています。エンドルフィンの作用で、モルヒネを服用しても依存症にはなりません。



慢性痛を我慢することは、百害あって一利なし。医療用麻薬を使うと麻薬中毒や依存症になる、使用すればガンの余命が短くなる、などは誤解です。適切に医療用麻薬を使用することで、患者さんは痛みから解放され、見守られるご家族の苦痛や不安が解消されることを願っています。

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