マイケル・ジャクソンが「ミルク」と呼んだ麻酔薬・「プロポフォール」とは

プロポフォール

マイケルジャクソンさんの死因についての裁判で有名になったプロポフォール。見た目はミルクそっくりです


マイケル・ジャクソンさんの死因をめぐる裁判で、思わぬ形で有名になった麻酔薬があります。マイケルさんが「ミルク」と呼んでいたとされる、プロポフォール。見た目が牛乳そっくりの静脈麻酔薬です。医療現場では全身麻酔やICUでの鎮静で使われています。今回は、この優れた麻酔薬プロポフォールについてお話しします。
 

全身麻酔薬の種類……吸入麻酔薬と静脈麻酔薬

全身麻酔薬は、投与方法別に大きく2種類に分けられます。一つは、肺から呼吸を通して吸収される吸入麻酔薬。そしてもう一つは、点滴や注射という形で投与される静脈麻酔薬です。プロポフォールは、点滴で投与される静脈麻酔薬です。プロポフォールは、1965年イギリスで発明され、まずはヨーロッパで全身麻酔薬として広まりました。日本では、2001年から使用され、現在、100ヶ国以上の全世界、2億人以上の臨床使用経験をもつ静脈麻酔薬です。

プロポフォールが使用されるまでは、吸入麻酔薬が全身麻酔の主役でした。以前TBSでドラマ化されていた『仁』でも、エーテル麻酔が行われていましたね。エーテルを気化させ、呼吸に合わせて吸い込むことで、全身麻酔をかける方法です。現在の吸入麻酔では、液体の吸入麻酔薬は気化器で気体に変換されます。気化器には、麻酔ガス濃度を調節できるダイヤルがあり、その数字を目安にして、安全な麻酔深度を保ちます。

一方、プロポフォールを代表とする静脈麻酔薬は、点滴から投与されます。患者さんの体重や年齢、性別、全身状態に合わせて、投与速度を調節します。ですから、同じ60kg男性でも、25歳と75歳では投与量が違ってくるのです。通常、75歳の方より、元気な25歳の男性には、時間あたりの投与量を多くします。麻酔科医はこの投与量計算を、主にプロポフォール専用注入器で行い、手術中、常に管理しています。
 

プロポフォールの特徴・効果・メリット

プロポフォールの主な特徴は、4つです。
  • すぐ効く
  • 麻酔深度調節が簡単である
  • 麻酔からの目覚めが早く、スッキリとした目覚めが得られる
  • 大気汚染が少ない
以下でそれぞれについて詳しく解説します。
 

【プロポフォールの特徴・メリット1】効果発現が早い

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スッキリ爽やかに目覚めることが、プロポフォールの特徴です

手術室に入ったらすぐに眠りたい、とおっしゃる患者さんは多いものです。余計なストレスをかけないことも、麻酔科医師の務め。投与すれば、すぐ効いてすぐ眠る事ができる麻酔薬は、重要な武器です。プロポフォールなら、比較的元気がある20~65歳の方が手術を受ける場合でも、投与すれば平均40秒で眠らせることができます(参考文献1)。
 

【プロポフォールの特徴・メリット2】麻酔深度調節が簡単

また、他の静脈麻酔薬に比べて、麻酔深度調節が簡単であることも重要なポイント。プロポフォールは、その投与速度が患者さんの血中濃度に反映します。すなわち、投与速度を速めれば、プロポフォールが多く投与されることになり、血中濃度が上昇して麻酔深度が深くなります。反対に、投与速度を遅くすればその濃度が薄くなるので、麻酔深度が浅くなり、患者さんは目覚めます(参考文献2)。
 

【プロポフォールの特徴・メリット3】目覚めの質がよい

吸入麻酔薬は、麻酔深度の調節性に優れ、ダイヤル一つで操作できる簡便性が特徴です。しかし、吸入麻酔薬による全身麻酔の意識の回復には、場合によっては長い時間が必要だったり、シャキっと目覚めにくかったり、吐き気などの問題がありました。ところが、静脈麻酔薬プロポフォールの目覚めには、特徴があるのです。全身麻酔後の目覚めが早く、なんだかスッキリ目覚めるのです。

全身麻酔終了後から患者さんが目を開け、自分の生年月日を正確に答えられるまでの時間を測定した研究があります。手術が終了し、一般的な吸入麻酔薬投与を中止し、自分の生年月日が言えるようになるまでの平均時間は、12分。一方、プロポフォール投与中止から生年月日が言えるようになるまでの平均時間は、6分でした(参考文献3)。ただ目覚めるだけではなく、意思疎通が早くできることは、手術後早期の神経障害などの評価にはとても有用なことです。
 

【プロポフォールの特徴・メリット4】大気汚染が少ない

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余った吸入麻酔薬は、地球温暖化ガスとして、大気に影響しています。その作用は、1分子あたり二酸化炭素の230倍

長期間使用されてきた吸入麻酔薬の一つに、笑気ガスがあります。この笑気ガスは、地球温暖化に影響することが分かっています。笑気ガスの大気中の濃度は、CO2の約1000分の1なのですが、なんと1分子あたりの温暖化効果は、CO2の約230倍!地球温度上昇に対する影響は、温室ガス全体の約10%を占めると評価されています(ちなみに、CO2は約50%)。気体である吸入麻酔薬は、余剰ガスとして大気に放出され、地球温暖化に働きます(参考文献4)。

もちろん静脈麻酔薬なら、点滴から体に投与された後の余剰分は全て破棄されます。大気汚染を起こす可能性が全くないのでは?と考えられがちです。しかし、静脈麻酔薬が万能、という訳でもないようです。なぜなら、投与後の静脈アンプルや注射器、点滴セットは、すべて医療ゴミとなります。医療ゴミの廃棄にもコストはかかりますし、焼却処理されれば、それは当然、CO2を産生し、完全に地球環境に優しいとは言えないでしょう。

現在、麻酔科医は、環境保護と医療費削減のため、笑気ガスなどの吸入麻酔薬使用量を減らす麻酔方法を工夫しています。また、静脈麻酔を上手に組み入れることで、麻酔の質を向上させるべく努力しています。麻酔薬と麻酔方法は、日進月歩なのです。
 

プロポフォールの短所・デメリット……血圧低下・徐脈・習慣性を作る可能性など

このように、マイケル・ジャクソンさん裁判で有名になったプロポフォールには、全身麻酔薬としてたくさんの長所があります。しかし、投与時の血管痛を始め、発症頻度が0.1~5%未満とはいえ、血圧低下、徐脈、呼吸停止、気管支痙攣などの重篤な副作用もあります。睡眠薬や抗不安剤などを服用している患者さんでは、相互作用と言って、思わぬ強い形で効果が出てしまう場合も。また、スッキリさわやかな目覚めが、かえって幸せな気分を催し、習慣性を作ってしまう可能性も指摘されています。ですからプロポフォールは、熟練した麻酔科医の管理の下、呼吸を確実に確保し、血圧や心電図、体内酸素濃度などを測定しながら使用されます。

プロポフォールは、手術室やICUで医師の管理下に適正使用されれば、非常に優れた麻酔薬です。もし、ご自分やご家族が全身麻酔を受ける時には、誤ったイメージで麻酔薬を見ないで下さい。本当に優れた麻酔薬は、必ず、あなたを手術の侵襲から守ってくれる心強い味方なのです。

参考文献1:釘宮豊城ほか、麻酔と蘇生 29:3,1993
参考文献2:Gepts E et al., Anesth. Analg. 66:1256,1987
参考文献3:真下節ほか、麻酔と蘇生 29:57,1993
参考文献4:後藤隆久、森田茂穂、臨床麻酔 21:420-426,1997
 
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