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ガンの痛みを和らげるための医療チーム、緩和ケアチームが病院にはあります。遠慮なく、細かいことでも相談しましょう

日本でのがんによる死亡率は全死亡率の約1/3。そのうち、約80%のがん患者さんが痛みを訴えます。がんによる痛みを少しでも軽減するために、「WHOがん疼痛治療指針」の第3段階では、鎮痛作用の強い医療用麻薬の使用を推奨しています。鎮痛作用の強い医療用麻薬の代表的なものはモルヒネです。

しかし、日本では「モルヒネ=麻薬」というイメージが強いため、「痛くてもなるべく使わない方がよい」「医療行為とはいえ麻薬を使うのは副作用が怖い」という誤解や偏見があるようです。

今回は、医療用麻薬としてのモルヒネの正しい情報を解説します。イメージ先行の誤解や不安を解消し、適切な治療選択に役立ててください。

医療用モルヒネへの誤解

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がんの痛みをやわらげるモルヒネは、経口投与から始まります

モルヒネについて、患者さんからのよくある誤解は、以下の5つです。
  • モルヒネを使ったらがん余命が短くなる
  • モルヒネで麻薬中毒や依存症になる
  • 使っているうちに、効かなくなる
  • 一度、始めると止められない
  • 注射で投与されるとつらい
これらは医療用麻薬に対する誤解です。これらの先入観が強く、治療投薬を拒絶するがん患者さんやモルヒネを拒否するご家族も少なくありません。

その結果、がんの痛みが強くなり、残念ながら長く苦しい悲惨な状況に追い込まれてしまう場合もあります。生活の質を落とさないためにも、がんの痛み治療では、がん患者さんご本人とそのご家族が正しい知識を持って、前向きに痛み治療に取り組むことが重要なのです。

それでは、以下でそれぞれの誤解を解いていきましょう。

医療用モルヒネでがん余命が短くなるのでは?

モルヒネを使用しても、がん余命は短くなりません。1996年~1997年の651名の末期がん患者を対象としたアメリカ合衆国の研究では、医療用麻薬であるモルヒネの高い安全性と患者の生存期間に影響がないことが報告されています。がんの痛みが取れて、余命にも影響を与えないモルヒネを、拒絶する意味はありません。

医療用モルヒネでも麻薬中毒や依存症になるのでは?

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採血も回数が増えれば、ガンの痛みを増強する因子となります

通常の状態と違い、持続的に強い痛みがあるがん患者さんにモルヒネを使用しても、依存症や中毒にはなりません。

なぜなら、痛みを感じているがん患者さんは脳内がストレス不快情報で過剰興奮状態にあるためです。この興奮した脳や中枢神経は、モルヒネを使用することで不快状態が改善し、脳内のバランスが調整されます。

モルヒネの使用が危険なのは、もともとバランスが取れている正常な脳を持つ痛みのない人が使用した場合です。正常な状態でモルヒネを体内に摂取すると快楽バランスが強化されてしまうため、中毒になると考えられています。前提として、モルヒネを使用する状況が違うことを理解しましょう。

医療用モルヒネは、使っているうちに効かなくなるのでは?

効かなくなることはありません。一般的な「消炎鎮痛剤」と呼ばれる痛み止めの場合、使用量を増やしても鎮痛効果があがらなくなる「天井効果」と呼ばれる作用があります。この場合は使用しているうちに効きにくくなってしまいます。

しかし麻薬の場合は天井効果はなく、がんの痛み治療では使用量上限はありません。治療中に徐々にモルヒネ使用量が増やすことがあります。この場合も同じ強さの痛みに対してモルヒネが効かなくなったためではありません。がん自体の痛みが強くなった場合に増やすのです。痛みの緩和目的の場合、モルヒネを増量することへのデメリットはないので、躊躇せずに痛みを緩和することが大切です。

医療用モルヒネとはいえ、一度始めると止められないのでは?

モルヒネを止めたいときには、徐々に減量して中止することができます。通常の場合はモルヒネの使用で脳内の快楽バランスが強くなるために依存が起きますが、がん患者さんの場合はこれが起こりません。

痛みを緩和する方法も麻薬だけではなく、ブロック注射治療や放射線治療があるのです。医療用麻薬を使い始めたが、やはり違う治療法に変えたいという場合はもちろん変更することができます。治療方針についても主治医とよく相談しながら、納得のいく治療を受けましょう。

注射で投与されるのは、つらいのでは?

がんの痛み治療の場合、モルヒネも経口型が第一選択です。最初から注射での投与は行いません。医療用麻薬の投与経路には、経口型、静脈・皮下注射型、座薬型、貼付型があります。がんの進行とともに内服が困難な状況になっても、痛みのコントロールが継続できるよう、さまざまな形状が開発されているのです。

また、経口モルヒネ薬には、定時的に服用するゆっくり長時間効くタイプと、突然発作的に起こる激痛用の即効性タイプがあります。この2つのタイプのモルヒネ薬を上手に使い分けることで、がんの痛みをうまくコントロールできるようになっています。

がんの疼痛治療におけるモルヒネ製剤の種類と特徴

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医療用麻薬には経口、座薬、注射、貼付など、色々なタイプがあります

鎮痛作用の強い医療用麻薬モルヒネには、経口薬、注射薬、座薬の3種類があります。経口薬には、ゆっくり長時間効く除放性製剤と早く効く即効性製剤があります。

モルヒネの使用では、経口剤の定時投与から開始し、がん患者の状態と効果判定、副作用の発現に細心の注意を払いながら、その種類や容量を管理します。がんの痛みを緩和するモルヒネに、使用上限はありません。

■ 経口薬
・ 除放性製剤
がんの痛みの基盤にある、持続した痛みをやわらげます。痛みが出る前から、定時的に決められた量を、継続服用します。

・ 即効性製剤
時々、突発的に痛くなる痛みに対応します。この痛みがいつ出現するかわかりませんが、骨転移で体を動かすと痛い場合などでは、体交時に使用します。

■ 注射薬
がんの痛み治療の基本は経口薬ですが、痛みの増強とがんの進行具合で、投与ルートが注射へ変更します。注射の投与ルートは、静脈、皮下、背骨の奥の硬膜外(こうまくがい)、脊髄神経に近いくも膜下と、いろいろあります。これらは医師の管理下で行われます。経口薬が内服できなくなっても、投与ルートを変更することで、がんの痛みが改善されることがあります。

■ 座薬
経口投与が不可能になった場合には、座薬が選択されます。しかし、座薬単独では長時間の継続は難しくなってくるので、他の強オピオイドであるフェンタニル貼付剤に変更される場合があります。

末期がん、モルヒネ、副作用

がんの痛みが無い状態で、人生の最期を過ごすことは、がん患者にとっても、そしてその御家族にとっても、とても重要なことです

がんの痛みは、がん自体の痛みはもちろん、処置や検査に伴う痛み、がんから派生した寝たきり状態に伴う腰痛や、免疫力低下に伴う帯状疱疹まで、痛みの原因はさまざま。これらの痛みが持続的かつ突発的に襲ってくる状態です。がんの強い痛みをやわらげる医療用麻薬、モルヒネの使用を躊躇する理由があるでしょうか?

強い痛み止めだから副作用が心配、という声をよく聞きます。しかし、がんの痛みに使う医療用麻薬は痛み止めが強いのではなく、「強い痛み」を止める薬なのです。人生の最後に残る記憶が、毎日がんの苦痛と闘う日々になったなら、こんな悲劇はありません。がん患者自身の苦しみだけではなく、それを看取った家族にも悔やみきれない後悔の念を残すことでしょう。モルヒネを使用することで得られる痛みの無い状態で、全てのがん患者さんに人生の有終の美を飾って欲しいと願います。

参考文献
High dose morphine use in the hospital setting.A database survey of patient characteristics and effect on life expectancy. Bercovitch M, Waller A, Adunsky A. Cancer/86(5)871-877/1999
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