入居希望者が実際の部屋を見学することを、業界用語で「内見」といいます。内見に来る人が何人もいるのに、なかなか入居にまで至らない物件があります。その場合は、実際に物件を見たときの「印象」に問題があるのだと考えなくてはなりません。
まず、内見に来た人の「心理」を理解する
エントランスの印象が分かれ目
不動産会社が来店した入居希望者に複数の物件を案内する場合、どんな順序で物件を見せていくかは、担当者によってそれぞれです。本命の物件を最初に見せる人もいれば、最後にとっておく人、本命かどうかとは関係なしに案内する人もいます。
入居希望者はインターネットや募集図面の上で見た情報をもとにイメージを膨らませながら、いよいよ実際の建物を目にすることになります。インターネットや募集図面を物件に対する第一印象とすれば、第二印象というのが建物の前に立ったときに受ける印象です。
まず、入居希望者は不動産屋さんから物件までの道のりで、その地域の環境が自分に合うかなんとなく確かめています。その上で物件の入り口に立ち、建物を見上げ、エントランスの構え、正面から見たときの建物の全体像(ファサード)を目にします。この第二印象でどれほど入居希望者を引きつけられるかが一つの分かれ目です。
物件全体の清潔感や手入れが行き届いている感じ、植栽の雰囲気、エントランスがみすぼらしい小さなものなのか、それとも入居者をお迎えしたいという気持ちが感じられる素敵なエントランスなのか。そうしたことによって入居希望者の印象は決まります。
そこからは部屋に向かうアプローチです。エントランスホール、階段あるいはエレベーター、共用の廊下を通って部屋の入り口まで目にします。そのときには郵便ポストなどの設備もチェックし、それらの様子で物件の日常の管理状況を推察しています。
そして、ついに部屋の中に入ります。このとき受ける印象が、いわば第三印象です。物件を見に来ているという時点でインターネットや募集図面での第一印象はOKだったわけです。そして建物の全体像の第二印象も部屋の入口までの印象も問題なく、「いいね」と言ってもらえるような好感触を得ていたら、部屋に入ったときの印象で最終的な判断が下されます。
部屋の中ではまた、さまざまなポイントがチェックされます。窓からの景色、採光、水周りの様子、エアコンやセキュリティなどの設備、室内のカラーリング、原状回復あるいはリフォームがきちんとされているか、ブロードバンド環境やケーブルテレビなどの付加価値はどうか。
そうした点をクリアして気に入ってもらえたら、入居希望者は「この部屋に自分はどういう風に住むだろう」と考え始めます。冷蔵庫はここに置き、お気に入りのテーブルやドレッサーはこの場所に。ベッドはどうしようか。何か植栽を置こうか、などなど。
といっても予算の制限もありますから、100点満点ということはありません。入居希望者からすると、何かしら妥協しなければ部屋は決まらないのです。たとえば外観のデザインが今一つだとか、フローリングの色が好みでないとか、間取りや水周りの使い勝手がしっくりこないなどです。そうなると、どうしても他の物件と比較したくなります。
たとえその物件だけを見たとき、自分にとって100点だと感じたとしても、本当に100点なのか、人は慎重になるものです。ですから念のために複数の物件を内見し、比較検討して、その中からもっとも希望条件に合った物件を選ぶことになります。
とはいえ、気に入った物件を見た後で他を見るという場合は、その物件を本命として、入居の意思を固めるために他の物件も見ておこう、という意識になっています。そこまでハートをつかんで、初めて入居申込書を書こうということになるのです。
建物も見た目が90%?
入居者が最初に建物を見たときの印象はとても大事です。建物外観のきれいさ、デザインの良さ、植栽の温かみのある雰囲気、きちんと手入れが行き届いているという清潔感は、必ず入居率の向上につながります。以前、『人は見た目が9割』(竹内一郎著・新潮新書)という本がベストセラーになりましたが、建物も同様です。人はどうしても見た目の印象、特に第一印象に左右されます。入居者の物件への評価も「パッと見」の印象で大部分が決まってしまいます。
そのため、エントランスに入っていくまでの建物全体の印象は、実は部屋そのものの印象と同じくらい重要です。たとえ部屋そのものは日当たりが良く使いやすい間取りで、住み心地の良い物件でも、建物の見た目が冴えなければ来た人は失望してしまいます。そこでは外構や植栽がきちんと考えられているか、建物正面(ファサード)の見た目、夜であれば照明のアレンジ、温かみが感じられるか、といったことが問題となります。