セットアップはデジタルレコーダーとTOS-LINK(光デジタル)でつなぐだけ
RP-WF7のセットアップは非常に簡単。ブルーレイディスクレコーダーのTOS-LINK(光デジタル出力)を送信ユニットにつなぎ、認証を確立するとすぐに再生が始まります。TOS-LINK接続の場合、BDのドルビーデジタル/DTS/リニアPCM信号が先のドルビープロロジック2Xにエンコードされヘッドホンに無線送信された後、DA変換して7.1chバーチャル再生されるわけです。誤解のないように断っておくと、RP-WF7はHDMI入力を持ちませんので、DTS-HDマスターオ-ディオ7.1chやドルビーデジタルトゥルーHD7.1ch音声(これらをHDオーディオと総称します)を持つソフトをBDで再生しても、オリジナルの7.1ch/6.1ch音声は再現されません。
上記HDオーディオのコアストリーム(音声の基礎部分)のDTSやドルビーデジタル5.1ch音声信号が抽出されて送信ユニットに入力され、その内部のプロロジック2x回路がバーチャル7.1chデジタル音声を再生成するのです。
また、RP-WF7はヘッドホン入力を持ちません。本機について映画がメイン、と評した理由の一つがそれですが、TOS-LINKの他にアナログ入力があり、ミニジャックをRCAピンアナログ音声出力に変換するケーブル(別売)を買えば、携帯プレーヤーの再生も可能になります。
今回は試聴しませんでしたが、こうしたワイヤレスヘッドホンが大いに役立つのが電子楽器の練習です。映画や音楽を聴いている間はあまり体を動かしませんが、楽器の練習はそうでありません。ワイヤレスなら腕にケーブルがまとわりつかないので、練習が捗ります。インドアでの用途に関しては非常に使い道の広い製品といえるでしょう。
長時間の装着でも快適
接触部分に軟質発泡ウレタンを使用するなど、長時間装着していても疲れを感じにくい(画像はイメージ)
次に耳を傾けてみましょう。かつてのワイヤレスヘッドホンの弱点だった音の断絶が皆無であること。音楽映画やCDを聴く場合、これも必須です。
移動表現には得手不得手があるが、広がり感はなかなかのもの
サラウンドには、音の広がり感、包囲感、移動表現といった要素がありますが、まず移動表現からチェックしましょう。DTS-HDマスターオーディオ7.1chで収録された定番ソフトが『パンズ・ラビリンス』。スペイン映画のためブルーレイディスクが日本発売されていませんが、アカデミー外国語映画賞にノミネートされたダークファンタジーの傑作です。7.1chサラウンドシステムをテストする場合、私が必ず試聴するいわば試金石のようなソフトで、チャプター4で妖精が主人公のアナの周りを飛ぶシーンで、妖精の羽音が上下動をしながら聴き手の周りをはっきりした軌跡で動いていくかがポイント。
RP-WF7はみごとに妖精の360度の移動を音で鮮明に描き出しました。普通は聴き手の背後に2~4個のスピーカーを設置するわけですが、左右たった二つのドライバー(スピーカー)でそれができるわけです。
ドルビープロロジック2Xであるわけですが、具体的には左右の耳に入る情報にクロストークキャンセル信号を重畳させ、周波数変調を掛けて頭内に定位させるわけです。そのエンコードとデコードがRP-WF7は非常に効果を挙げており、鮮明な移動表現を生み出しているのです。
もう一つ、移動表現力を試すために聴いたのが、ドルビートゥルーHD 6.1chの代表的なソフト『スター・ウォーズ エピソード2 クローンの逆襲』。オビ・ワン、パドメ、アナキンが捕えられ闘技場であはや、という定番シーンを試聴しました。
ジェダイと共和国軍が救援に現れ適地を脱出する直前に、巨大な円柱が前方から倒れてくるシーンがあります。この映画は真後ろにスピーカー(サラウンドバック)を想定して製作されたサラウンドEXの最初の作品です。
前方から後方へ、力強く鮮明な音の移動が聴けるのですが、残念ながらRP-WF7の場合、実音源を持たないバーチャルなのでこうした直截な描写は苦手のようで、真ん中辺りで音が止まってしまいます。
それではサラウンドで移動表と並びもう一つ重要な広がり感、包囲感はどうでしょう。チェックするために聴いたのがスクリーンミュージカル名作中の名作『マイ・フェア・レディ』。
この映画は元来が70mm作品でオリジナルが6チャンネルで収録されていて、最近発売されたブルーレイディスクはDTS-HDマスターオーディオ7.1chにリミックスしています。つまり、フロント3チャンネルにサラウンドLRとサラウンドバックLRが加わるわけです。
ここでのポイントは、ミュージカルシーンでの「音のふくらみ」感です。
ミュージカルは登場人物の心の高揚が歌い出しのきっかけになります。本作の7.1chのサウンドデザインに耳を傾けると、サラウンドとサラウンドバック(聴き手の真後ろに置く)で出てくる音が異なっています。ちなみに、同じ1960年代ミュージカルでも『ウエストサイド物語』は同じ音が出ます。
オーケストラの中の高い音域の、ソプラノとオーバーラップする音域の楽器、バイオリンや金管楽器をサラウンドバックに振り向けています。その結果、フロント(特にセンター)から出る歌声とたての線が生まれ、ヒロインのときめきが活き活きと伝わる効果が生まれています。
RP-WF7の場合、サラウンド(シネマモード)にすると、オーケストラの音が立体的でふくらみを感じさせ、ヒロイン(ヘップバーン演じるイライザ)の心のときめきがちゃんと表現されています。ちなみにサラウンドをオフにすると音が平板になり、ときめき感も消えてしまいます。サラウンドの語源でもある、広がり感でもRP-WF7は申し分ない表現力を持ったヘッドホンといえるでしょう。
実売2万円+という価格はヘッドホン、イヤホンの一般的な価格からすれば、安くはありません。しかし、RP-WF7は単なる音楽を聴く道具でありません。あなたの部屋に映画を連れてくる世界最小の劇場システムです。そう考えれば価値ある投資といえるでしょう。
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パナソニック RP-WF7