花粉症/花粉症治療・病院・薬

キスで花粉症が治る!? 花粉症都市伝説

医療関係者の労働環境は、人並みとはいいかねますが、ありがたい事に花粉は人並みに扱ってくれます。何か秘密の治療法があるという、都市伝説もあります。

西園寺 克

執筆者:西園寺 克

医師 / 感染症・健康情報ガイド

キスで花粉症が治る!?

某テレビ局からの都市伝説の検証依頼。先方の意向は、他人の唾液には花粉症を治す効果があるという触れ込み。唾液の成分、水分量は個体でも変動ありますが主な成分は個人差無し。

口腔内の細菌には個人差が確かにあります。いわゆる虫歯菌の歯への粘着性は親、特に母方の菌の性質を受け継ぎます。連鎖菌は溶血性(体内の血液ではなくて血球入り培地)が分類の目安ですが、溶連菌の保有には個人差があります。口腔内細菌と花粉症の関係は明確ではありません。

唾液中で個体差があるのはヘルペス科のウイルス。なかでも、キス病の原因となるEBウイルスは全員が持っているの(保菌者)ではありません。キス病、伝染性単核球症を発症したら、免疫系は花粉に構っている事はできません。

判定:都市伝説『キスをすると花粉症が治る』はシロ。

目薬で花粉症が治る!?

風が吹くと桶屋が儲かる的な都市伝説です。ただし目薬といっても花粉症、アレルギー性結膜炎に効く目薬に限定した都市伝説。目薬は涙と同じ流れで目の鼻寄りにある涙管を通って鼻腔に流れていきます。鼻詰まりに対して点鼻薬を使う人もいます。目薬に鼻詰まりに有効な成分が含まれている場合は効く可能性があり、含まれていない場合は効かない事になります。

判定:都市伝説『目薬で花粉症が治る』はグレー。

花粉症の薬は花粉が飛ぶ前に飲み始めないと効かない!?

この都市伝説の根拠は、花粉症に一番関係する免疫系の細胞、肥満細胞の寿命と関係しています。花粉症に関係する液性免疫物質は免疫グロブリンの一種のIgEです。IgEと結合しなかった肥満細胞の寿命は数日に対して、IgEと結合した肥満細胞の寿命は数十日あります。IgEとの結合を阻止する作用がある薬があれば正しい都市伝説です。現在、処方される事が多い薬は花粉と肥満細胞が結合した後の肥満細胞からの化学物質を抑制するものです。

判定:都市伝説『花粉症の薬は花粉が飛ぶ前に飲み始めないと効かない』はクロ。

医療関係者は花粉症の特効薬を隠している!?

いわゆる隠蔽体質。医療関係者は秘密の治療方法を知っているはず。ウィキリークスはともかく、隠すのは不可能と考えるのが普通ですね。解説は後にして、いきなり判定です。

判定:都市伝説『医療関係者は花粉症の特効薬を隠している』はシロ。

実は花粉症と喘息の免疫機構は、ほとんど同じ。アレルゲンの大きさ、花粉はミクロの世界では大きいので呼吸器系の奥まで届かないだけです。砕けた花粉が原因と推定される、いわゆる花粉症喘息という病態があり、花粉症では通常は投薬しない吸入薬で発作を抑えます。花粉症の薬と喘息の薬の内服薬は共通しています。IgEと肥満細胞の結合が、花粉症では諸悪の根源。IgEが肥満細胞と出会う前に誘惑してしまえば出会いはないはず。他に有効な治療方法がない重症な喘息に対して許可されている抗IgE抗体製剤(注射薬)があります。花粉症と喘息の免疫機構は基本的に同じなので花粉症にも効果は充分に期待できます。

ただし、厚生労働省が認可していない目的で注射薬を使えるのは医療関係者だけです。また、供給量が限られているので生命の危機がある重症喘息患者の方に、まず供給すべきという厚生労働省の判断は妥当です。

花粉症の薬は2種類以上飲んだ方が効く!?

旨味の場合、和食の一番だしは、昆布だしと鰹だしをあわせます。洋食では、トマトと肉類を合わせます。花粉症の薬も1剤より、2剤と考えるのは自然です。解説が長いので判定を先にします。

判定:都市伝説『花粉症の薬は2種類以上飲んだ方が効く』はクロ。

ドクターショッピングというと大袈裟ですが、初めて花粉症を経験した人に有りがちなのは、A医院でもらったa薬が自分には効きません。で、B医院へ。問診でa薬飲んでいると告知。b薬を試そうと処方されます。b薬はa薬よりも効いた感じがします。そして3割負担したa薬、もったいないからa&b薬を飲もう。

1剤だけ処方する場合、抗アレルギー剤を処方します。上の話、a薬とb薬は違う抗アレルギー剤です。旨味の話に例えると、昆布だしに別の昆布だしを加えた状態です。服薬のコンプライアンス(簡単にいうと服薬量と服薬時間を守る)を考えると1日1回1錠が望ましいです。副作用に眠気が多少ある薬、抗アレルギー剤は夜に、眠気が出ない薬は夜または朝に服薬します。

眠気が出ない薬は抗アレルギー剤ではありません。花粉症を川の流れに例えると、抗アレルギー剤は上流で流れを堰き止めます。眠気が出ない薬は下流での洪水の被害を少なくします。下流での洪水の被害で一番困るのが鼻詰まりです。喘息の薬ですが花粉症では鼻詰まり予防薬という事になります。夜に飲み忘れても起床後跳び起きて脱兎のように家を飛び出さない限り、朝に飲んでも効きます。

薬を2剤出さない理由は、医療の仁術ではなくて算術の面からです。いわゆる、2剤出すと保険の査定で削られる可能性が高いからです。同じ薬剤の処方でも病名を花粉症ではなくて喘息とすると保険の査定で切られる可能性は減ります。

また、下流に効く薬は種類が少なく、ジェネリックもありません。薬価が高いのです。患者さんの負担を考えると処方しにくい面があります。

花粉症になったら眼科へ行こう!?

ネット上の都市伝説は同時多発的側面があります。この都市伝説はガイドが勝手に流します。

判定:都市伝説『花粉症になったら眼科へ行こう』はクロ。

『花粉症の薬は2種類以上飲んだ方が効く』を言い換えると『花粉症の目薬は2種類以上使うと効く』となります。2種類以上の目薬を使い分ける臨床経験の蓄積があるのは眼科だけです。アレルギー性結膜炎は痒いので目をどうしても擦りたくなります。花粉だけならば目を少し擦っても大きな傷害とはなりません。春は花粉に加えて黄砂が飛ぶ日もあります。黄砂は硬いので角膜を傷つける可能性大。コンタクトレンズの人は角膜びらんになるとしばらく装着できなくなります。

花粉症で目が霞んでいると思いこんでいて、実は別の病気という事も良くある話です。アレルギー性結膜炎で怖いのは、血管新生です。角膜移植が免疫抑制剤無しに可能なのは免疫担当細胞が通る血管がないからです。角膜が透明性を保っているのも血管がないので血液中の色素で染まらないのです。

コンタクトレンズを装着していて、花粉症の方はスギ花粉症の時期に一度は眼科へ行く事をお薦めします。眼科医の方が花粉症だとpetit患者の会で地域の花粉情報を共有できますね。

花粉症には東急ハンズ!?

コンビニには、入れませんね。

コンビニには、入れませんね。

東急ハンズは主に都市部しかありません。最後の花粉症都市伝説、いきなり判定です。

判定:都市伝説『花粉症には東急ハンズ』はクロ。

花粉症は直る病気ではありませんが、一方で死に至る病でもありません。免疫力が余っている状態です。免疫力の浪費という考えもありますが、国民的アイドルならぬ国民病。楽しく、愉快に長年付き合うのに東急ハンズをお薦めします。写真のゴーグルは東急ハンズで購入しました。もっとも写真の出で立ちだとコンビニには入れないので不便です。

また、東急ハンズの花粉症グッズ売り場に辿り着く前に、いろいろ他のグッズを買って浪費してしまい花粉症グッズを買えない可能性もあったりするのでクロ!
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