インディ500は何でも許される
100年続く歴史と伝統、などと書くと格式高い荘厳なイメージだが、テレビから見える「インディ500」と現地で見る印象は大きく異なる。その最たるものは観客の雰囲気だ。スタンドに飾られた黎明期の貴重な写真。ファイアストンタイヤのクルーの姿。
かつて「インディ500」は紳士たちのイベントとされ、第二次世界大戦が終わるまではフォーマルな洋服に身を包んだジェントルマンたちが、自動車レースでセレブな雰囲気を楽しむイベントだった。
黎明期のインディアナポリスモータースピードウェイは女人禁制とされ、出場選手はおろか女性の観客さえも入場できなかった。大戦で休止していた「インディ 500」が再開されると、若い男女がカジュアルなスタイルで入場し、自由な雰囲気を楽しむレースイベントへと変わっていった。ビールを片手にレースを楽しみ、語り合う。そんなアメリカらしい自由な空気があふれるイベントになっていったのだ。
オーバルコースの外側のスタンドに入ってみると、今はフォーマルな格好でレースを見るものなど誰一人居ない。みんな巨大な缶ビールを片手にワイワイとレースを楽しんでいる。レースの行方を真剣に追っている熱心なレースファンも居れば、決勝レース前に既にお酒に呑まれてできあがってしまっているオジサンも居る。
第4ターンのスタンド席
コースのイン側にいけばもっと驚く。日本のサーキットではコースのイン側は高額な特別チケット購入者のエリアになることが多いが、「インディ500」のイン側は芝生エリアの自由席だ。当然チケット代も安く、僅か30ドル(約2400円)。芝生には学生から若いカップルまで、年齢層の若い男女が集い、上半身裸やビキニ姿で延々とビールを飲み続けている。
コースのイン側芝生席の若者達。酔っぱらって大人数で奇声を発したり、勝手にスピーカーを持ち込んでクラブパーティーのようなエリアを作ったり、もう何でもアリなのだ。もちろん大多数の人がレース展開なんてそっちのけで、歓声が聞こえた時やクラッシュ発生時だけ大スクリーンに目をやってレース展開を知るくらいだ。(もちろんスタートとゴールは盛り上がって楽しむが…)
日本のレースファンからしたら、そんな姿はけしからん!と憤るかもしれないが、80年代90年代のレースブームの頃の日本の人気レースも若者が自由にそれぞれで楽しむものであったのでは?
もちろんレースをちゃんと見ている観客もいるのであしからず。
「インディ500」で観客が楽しみにしているのは決勝レース日だけではない。次のページでは、日本ではあまり知られていない、また違った楽しみがある決勝前の様子をご紹介。