計画的な修繕は、経営的にも精神的にも健全です
計画修繕で、寿命は延びます
築10年を過ぎて建物にさまざまな補修が必要になってきたとき、オーナーさんの対応には2種類あります。
1つは「まだまだ使える」と補修を先延ばしにして、後手に回ってしまう場合。もう1つは、実際に故障したり傷んできたりする前に、計画的な補修を行う場合です。
どちらを選ぶかによって、建物の寿命や老朽化の進行度合いは大きく変わってきます。やがて補修が必要になることを見込んで費用を積み立てておかないと、いざとなって思わぬ出費に慌てることになります。また適切な補修時期を逃してしまうと、建物や設備の劣化が進んで機能を回復させることが難しくなり、定期的な修繕工事に比べて余分な費用が必要になってしまいます。
建物や設備のあちこちが故障したりサビてきたりして、年を追うごとに頭痛のタネが増えるというのは、修繕計画が後手に回っている状態なのです。それによって賃貸経営に不安を感じるオーナーさんも出てきます。
建物の定期的な補修は賃貸経営の必要事項として織り込み済みにし、計画的に修繕を行う方が、経営上も精神衛生上もはるかに健全です。毎年必要となる出費を厭わないことで、最終的にはその何倍もの収益の差が出てくるのですから。
一口に「建物・設備の維持管理」と言っても、建物と各種の設備はそれぞれ寿命や補修のサイクルが異なります。
たとえば鉄筋コンクリートの建物構造部分は、法定耐用年数が47年となっていますから、適切な維持・管理を継続すれば、その寿命は50年以上と考えることができます。
これに対して建物設備の寿命は、ものにもよりますが一般に7~15年程度と考えられています。従って設備については基本的に消耗品と考えて、予め予算を立てておき、入居者ニーズの変化などに応じて弾力的に更新・グレードアップを進めていくことがポイントになります。
修繕計画は長期であることが大事
私がお勧めしたいのは建物の長期修繕計画を立てることです。各所の修繕の必要周期に合わせ、長期的で一覧性が高い修繕計画を立てることが大切です。具体的には、「建物」「設備」「それ以外」に分けて、建物各所の修繕の必要周期を一覧にし、どの時点でどの部分の修繕工事が必要になるのか、スケジュール表を作成するのです。スケジュール表の期間は20年間以上にわたり、これを「長期修繕計画書」と呼ぶことにします。修繕は、大きく4つのカテゴリーに分けられます。
1は、入居者が日常の生活を送る中で発生する破損、汚損を直していくこと。
2は、入居者が退去した際の原状回復や次の入居者を入れるためのリフォーム。
3は、建物の状態を維持するための、5~10年単位で行う中期的な修繕。
4は、長期計画に基づく大規模修繕です。
竣工後15年程度になると、外壁の吹きつけ部分の全面塗装、バルコニーの防水工事や手摺りの塗装工事、屋上防水工事など、足場を組んでの大がかりな工事が必要となります。できれば少し早めに計画し、各種の修繕を一度にまとめて済ませることが、費用の節約にもなり、賃貸物件としての競争力を保つことにもつながります。
ですから、築15~20年のスパンで足場を組んでの大規模修繕を行うことを予定しておき、そのための費用を準備しておくべきでしょう。大規模修繕までを念頭に入れて、定期的・計画的に修繕を行っていくためには、早いうちから真剣に考えないと間に合いません。長期修繕計画書は、オーナーさんの大切な資産である賃貸住宅を末永く健康な状態に維持するために、とても役に立つ資料となるでしょう。
先手の修繕がプラスの安定スパイラルを生む
ある日突然大きな病気に襲われないためには、日常の健康管理が大切です。建物も同じで、普段のメンテナンスがしっかり行われていない建物は、いずれかの時点で抜本的な大工事が必要になってしまい、かえってお金がかかることになります。たとえば建物の竣工後6~8年で行う必要が出てくるのが、鉄部の塗装工事です。塗装面は傷みやすく、鉄部の塗装が浮いてきたときは、塗装の内側にサビが発生しています。放置するとサビはどんどん広がり、内部深くまで腐食が進行していきます。そうなったらいくら塗装し直しても、もう元には戻りません。鉄部の腐食による大事故の発生という事例もありますので、早めに再塗装することです。
再塗装では、まだ腐食が内部まで進まないうちにケレン(サビ・汚れ落とし)をかけてサビや浮きかかった古い塗装を剥がし、サビ止めを丁寧に塗り、さらに二重、三重に塗装を施します。これにより鉄部の寿命が延びるだけでなく、建物が本来の美しさを取り戻すことになります。
早めの手入れによる美観の維持は入居者の満足度を高め、また新たに部屋を見に来る人にも好感を持ってもらえ、結果として空室対策にもなるのです。
不思議なもので、建物が美観を保っていると入居者のマナーも向上し、使い方が丁寧になってきます。反対に修繕が後手に回って建物の傷みがひどくなり、見た目もみすぼらしくなってしまうと、入居者の建物の使い方までぞんざいになってきます。意識の低い入居者が集まり、家賃の滞納や空室の増加、家賃の下落という貧乏スパイラルが始まります。きちんと建物の維持管理をしなければ、賃貸経営はどんどん悪い方向に落ちていってしまうのです。
これをお読みになったオーナーさんは、ぜひプラスの安定スパイラルを目指していただきたいと思います。