マイナスの貧乏スパイラルのオーナーさんとは
放置すると、傷みは早い
賃貸経営には、絶対に陥ってはならない悪循環があります。修繕やリフォームにお金をかけないと、
→建物の老朽化が進む
→入居者の質が低下していく
→家賃滞納の増加・空室の増加
→収益の低下
→お金がないので修繕やリフォームができない
私どもでは、これを「賃貸経営の貧乏スパイラル」と呼んでいます。修繕や管理の費用を出し惜しむと、結局はあとからより大きな出費を強いられるか、もしくは問題物件を抱え込んで四苦八苦することになります。
嫌になって売り払おうにも、老朽化してしまうとまともな値段はつきません。売却する場合、賃貸物件の価格査定は収益還元法によるのが一般的ですが、そうした評価は10年、20年きちんと経営し続けて初めて成り立つものだと思わなくてはなりません。苦労ばかりで収益も生まず、売るにも売れず、ローンを抱えて身動きが取れなくなっているオーナーさんを、私はこれまで数多く目にしてきました。
反対に「賃貸経営の安定スパイラル」ともいうべき好循環もあります。
必要な修繕やリフォームの費用をしっかりかけることで、築年数は同じでも見た目に古さを感じさせず、手を加えない物件と比べて空室率も低く収まり、より高水準の家賃が維持できるのです。
建物としての耐用年数も手入れ次第で変わってきます。オーナーさんに建物への愛情、感謝の気持ちがあれば、その美しさや機能の維持のためにお金をかけるはずです。そして建物はお金をかけた分だけ、オーナーさんに報いてくれるのです。
プラスの安定スパイラルのオーナーさんとは
ある大型の鉄筋コンクリートマンションの女性オーナーさんは、築13年という、私の目から見ても「まだ早いでしょう」というタイミングで、足場を組んでの大規模修繕とリノベーションを始めました。私もデザインなどでお手伝いをしたのですが、もともと十分に魅力的な建物だったので、「リノベーションはまだいいんじゃないですか」と言うと、このオーナーさんは、「いいえ谷崎さん、これは私の寿命と建物の寿命の競争なんです。私、あと30年生きる予定ですから、この建物にもあと30年稼いでもらわないと困るの」とおっしゃいました。
このときのリノベーションは全体で3500万円ほどを投じ、エントランスから部屋の入口に至るまで全て新しい部材に交換するなど大がかりなもので、工事が終わった時、建物は新築と変わらない新しさを漂わせていました。
まず喜んでくれたのが、既に入居している人たちです。「オーナーさんはいつも建物をきれいにしてくれているけれど、そればかりでなくこんな大きな工事をやって新しさを保ってくれた」と感激していただき、おかげでこのマンションは築15年目に入った今も、周囲の新築物件と変わらない賃料を維持しています。
このオーナーさんは日頃から自らエプロンをつけて、共用スペースに毎日花を飾ったり、植栽の手入れをされています。早めのリニューアルもオーナーさんの高い意識と、建物への愛情の表れと言っていいでしょう。
ご自分の建物に愛情を持っていればそれに越したことはありませんが、それができないとしても賃貸経営をする以上は、「オーナーには建物を維持管理していく責任がある」という意識を持つことが最低限必要です。そうした気持ちすら持てないようであれば、賃貸経営を続けても不幸になるばかりですから、早めにやめて売却するか、更地に戻して駐車場にでもすることです。