食後血糖値と空腹時血糖値の違い
糖尿病の管理に大切な血糖値の自己測定。食後血糖値と空腹時血糖値の違いを説明できますか?
ヘモグロビンA1cは、つまるところ、毎日何回も繰り返す空腹時の低い血糖値と食後の高い血糖値の平均を反映します。ですから空腹時血糖値も食後血糖値も同じようにヘモグロビンA1cに寄与すると考えられてきました。
ところが、フランスのモンペリエ大学内分泌学・糖尿病学教授Louis Monnierらの研究によって、HbA1cが7.3%未満の人ではHbA1cに対する食後血糖値の寄与率が約70%もあるのに対し、HbA1cが9.3%以上の人では食後血糖値の寄与率が約40%に過ぎないことが示されました。
つまり、HbA1cが7%前後(日本表示)の比較的血糖コントロールがついている人では空腹時血糖値は元々大きく外れていないので、食後高血糖を抑えることが直接HbA1cの改善につながるのに対し、HbA1cが8%以上と「不可」の人はまず空腹時血糖値を正常範囲に近づけることが有効な手段となります。
同じMonnierらの別の論文(2007)でも、糖尿病診断の基準となるHbA1c 6.5%を超えて更に上がるようになると食後高血糖はより早く悪化して、空腹時血糖値が比較的正常であっても食後高血糖が急激に上昇する可能性を示しています。いわゆる血糖値スパイクです。
特に朝食後の血糖値が最初に悪影響を受けることも報告されています。この傾向は血糖値のサーカディアンリズムでも解説しました。
その他の介入試験の結果からも、空腹時血糖値のコントロールは必要ですが、これだけでは血糖コントロールの目標であるHbA1c 7%未満を達成するには不十分であり、食後血糖値の管理の重要性が再認識されています。
食後高血糖の悪影響
血圧や血糖値は連続して上がっていくものですから、どこかで線引きして高血圧症や糖尿病と診断して治療を始めなくてはなりません。2型糖尿病の場合は早朝空腹時血糖値が126mg/dlを超えたり、食後(糖負荷後)2時間値が200mg/dlを超えると糖尿病網膜症の発症が急激に増加することが疫学研究で明らかになったので、それが診断基準になりました。HbA1cもそれに準じた関連を示しています。
食後高血糖は心臓や脳などの大血管疾患の独立した危険因子であることには強いエビデンスがあります。同様に「高い山あり、深い谷あり」と頻繁に繰り返すことが血管に酸化ストレス、炎症、内皮機能障害の強いダメージを与えます。更にある種のがんや認知機能障害にも関連するとなれば食後高血糖の治療が必要となります。
食後高血糖の治療法
正常耐糖能の人では食後血糖値が140mg/dlを超えることはほとんどなく、2~3時間で基礎値に戻ります。ですから、メタボや糖尿病者も低血糖を起こさないようにして食後2時間血糖値を140mg/dlを原則として目標にすべきです。ただし、一人ひとりの事情に合わせた目標設定になりますし、小児や妊婦にもこの目標値は適切ではありません。あくまでも担当医と相談の上です。
糖負荷の低い食事は食後高血糖のコントロールに有効です。食後の血糖上昇の大部分は食事の炭水化物によります。炭水化物の質に注目すればグリセミック指数(血糖指数)の低い食品を中心とした食事になりますし、摂取量を管理するのであればカーブカウンティングが有効です。
また食事療法として、食事の時に「酢」を大さじ1杯飲むだけで食後血糖値を抑えられるという研究があります。中でもワインビネガーとリンゴ酢が最も効果的だそうです。酢の有効成分は酢酸(さくさん)であり、ふつうの食酢には酢酸が5%ほど含まれています。そして、酢を使った料理を食べると胃から腸への移動が遅くなります。これだけでも食後の血糖値上昇のピークを低くできるのです。
いずれも当サイトで度々取り上げていますので各記事を参考にしてください。
食後高血糖を標的とした糖尿病治療薬としては、αグルコシダーゼ阻害薬、グリニド類(速効型インスリン分泌促進薬)、DPP-4阻害薬、GLP-1誘導体などがあり、インスリンとしては超速効型インスリンアナログ、超速効型2相型(混合型)インスリンアナログがあります。
食後血糖値の管理には血糖自己測定が役に立ちますが、インスリンを使わない糖尿病患者はその費用が全額自己負担となります。試薬と穿刺針で一回130円位掛りますから全ての人に向くわけではありません。
なお、食後血糖値とは食べ始めた時を起点として2時間後の血糖値を指します。より精緻な血糖コントロールを目指す妊娠時の糖尿病(妊娠糖尿病)では「食後1時間」の血糖値が重視されています。
食後血糖値を抑制する効果的な運動療法とは
適度な強さの運動をすると、血糖値を下げることができます。運動をすると、筋肉は平常時の20倍ものブドウ糖を取り込み、エネルギーを消費しようとするからです。1型糖尿病の人は、体の中のインスリン濃度が比較的低い早朝の運動を好む傾向にあります。低血糖が起こらないとされる朝のインスリン注射の前、つまり朝食前の時間帯に運動するのが最適です。
逆に2型糖尿病では食後の運動が効果的です。ただし、調子に乗って過度の運動をすれば、当然ながら低血糖の恐れがでてくるので注意しましょう。
大事なことは、時間帯よりも自分に合った適切な運動を規則的に行うことだというのを忘れないでください。