人工妊娠中絶手術の麻酔方法や流れ
人工妊娠中絶には手術前に麻酔を必要とする前処置が行われます
<目次>
人工妊娠中絶手術麻酔の流れ
人工妊娠中絶手術には、1.手術前処置
2.人工妊娠中絶手術
3.手術後経過観察
の流れがあります。人工妊娠中絶手術では、1と2に麻酔が必要となります。
人工妊娠中絶手術前処置とは?痛みを緩和する鎮痛剤
手術前処置とは、人工妊娠中絶手術を行いやすくするために、子宮頸管(しきゅうけいかん)という子宮入り口を広げる処置です。手術前日、もしくは当日朝に行われます。クスコと呼ばれる15cmほどの鳥のくちばし状の器具で膣を広げ、ラミナリアもしくはダイラパンという、細いスティック状の拡張器を子宮頸管に挿入します。ラミナリアは、割り箸程度の太さの棒状の器具です。ダイラパンは、親水性ポリマーをベースにした、スポンジを固めたような器具です。これらは子宮頚管に入ると、周囲の水分を吸って徐々に膨らみ、その膨らむ力で子宮口を押し広げていきます。このラミナリアやダイラパンを、固く閉じている子宮頸管に挿入するときに、痛みを感じます。特に、若年者や出産を経験していない女性は子宮頸管が固く、痛みを感じやすいです。そこで、手術前処置を受ける前に、座薬などの鎮痛剤が処方され、挿入の痛みを緩和するよう配慮されています。人工妊娠中絶手術の麻酔は、通常「全身麻酔」
人工妊娠中絶手術は、妊娠の維持が母体に悪影響を及ぼす場合や、暴行などで望まない妊娠をしてしまった場合に受ける手術です。妊娠21週6日まで、母体保護法という法律にのっとって行われます。手術時間は5分程度と短いのですが、通常、点滴から投与される全身麻酔が選択されます。人工妊娠中絶手術の流れ・麻酔法
手術当日は、絶飲絶食が基本です。これによって、全身麻酔中と術後の嘔吐、誤嚥を防ぎます。麻酔方法は、点滴から薬を入れる静脈麻酔方法が選択されます。麻酔薬の内容や投与量は、医師の判断で異なります。今回は、今、日本で行われている、平均的な人工妊娠中絶手術麻酔方法をお伝えします。■産婦人科個人病院や外来で人工妊娠中絶手術を受ける場合
1.手術前に、血圧、心拍数、体温、呼吸状態など、全身状態のチェックを行います。
2.手術室入室後、手術台に上ります。点滴を入れ、心電図、血圧計、酸素状態を知る機械などのモニターを装着します。
3.点滴から、全身麻酔薬を入れます。麻酔薬内容は、産婦人科医によって異なりますが、痛み止め作用のある薬と眠らせる薬、2剤の組み合わせが主流です。痛み止め作用のある薬は、ペンタゾシン(15~30mg)が主に使用されます。また眠らせる薬では、ジアゼパム(5~10mg)、もしくはミダゾラム(5~10mg)が使用されます。
これらは肝臓で代謝されますが、代謝所要時間に大きな差があります。投与されたジアゼパムの半分が代謝されるまでの時間は、約11時間。一方、投与されたミダゾラムの半分が代謝される時間は、約2時間。よって最近では、手術後の早期回復、早期帰宅が見込まれる、短時間型のミダゾラムを使う産婦人科医が増えています。
■入院施設のある病院で、麻酔科医が人工妊娠中絶手術麻酔を担当する場合
1. 2.手術前診察からモニター装着までの流れは、ほぼ同様です。
3.麻酔科医が人工妊娠中絶手術麻酔をかける場合には、同じ静脈麻酔でも、投与薬が異なります。麻酔科医なら、より短時間で体から排出され、より確実に眠らせることができる静脈麻酔薬プロポフォールと、より鎮痛作用の強いフェンタニルの組み合わせが主流です。プロポフォールは主に肝臓で代謝されますが、投与後数十秒で眠り、手術が終われば、数分で目覚めます。フェンタニルは、手術後の鎮痛効果も期待されます。
人工妊娠中絶の手術後経過観察
手術後数時間は、血圧や呼吸状態、意識状態などを観察します。ちゃんと帰宅できる意識レベルに達し、腹痛や出血、発熱がない事を医師が確認し、退院となります。帰宅後も、患者さんは体がだるかったり、ふらつくことがあるので、安静が必要です。出血や腹痛、発熱の徴候があれば、すぐに医師に連絡しましょう。目が覚めているようでも、投与された麻酔薬の半分は体に残っている可能性があります。手術後の帰宅方法は、タクシーや公共機関を利用しましょう。記事取材にご協力いただきました、聖隷浜松病院麻酔科 入駒慎吾先生に感謝申し上げます。