シンプルライフ/シンプルライフの達人

秋岡芳夫に学ぶシンプルライフ(3ページ目)

生涯かけて「モノ」と向き合った工業デザイナー、秋岡芳夫。没後14年を経て、そのメッセージが、311以降を生きる日本人に伝えるものとは――。

金子 由紀子

執筆者:金子 由紀子

シンプルライフガイド

大好きなモノと暮らすことの大切さ

名言

サロンで見つけた「名言」。「いい器は一器多用 いろいろに使って美味しく食べよう 食器棚を満杯にしないですむ しかも楽しい」

秋岡さんに学ぶ、シンプルライフのための最大のコツ、それは、「消費者から、愛用者へ」でしょう。1971年に出版された『割りばしから車(カー)まで』の中ですでに、人口70億となった地球と、当時のままの消費のあり方をすすめていった日本が、世界が、どんな危機に陥るかを予測してなされた発言です。

便利だから、経済を成長させるからと、次から次にモノをつくり、ほしいままに使い捨ててていけば、いずれ資源は枯渇し、国土はゴミの山になる。よい手仕事が消え、暮らしに美しさはなくなる。そうならないためには、いいモノ、気に入ったモノを少しだけ、大切に使っていこう――。

 

「一客1万円のお椀を使おう」

漆椀

本物と模造品の漆椀。「本物の漆の椀と 漆器に見えるだけの椀はこんなに違う 素材と断面と塗師の心がそろった時 使い心地よく堅牢な本物の椀が生まれる」

『割りばしから車まで』の一節「うるしの椀・その使用料一回一円也」は、心にかなうモノを使うことが、暮しの質をどんな風に上げるかを教えてくれます。

同じお椀の形をしていれば、お椀としての用はなします。それならば、値段は安い方がいいように思うけれど、安いお椀は早くダメになる。いいお椀は高価だが長持ちするし、塗りなおしもきく。一回当たりの値段は、どのお椀も一円。同じ一円なら、毎日を心地よくしてくれる、いい器を使った方が、人生が楽しくなる――。
ここで大切なのは「一回一円」という値段ではありません。「人生が楽しくなる」ことなのです。
 

いいモノはいい人を、いい社会を作る

給食器

岩手県大野町(現洋野町)で実現した、地元の木を使った学校給食の器。

秋岡さんは後年、東北をはじめ日本各地の過疎地域の木工による産業振興に尽力します。岩手県大野町、北海道置戸町における、地元の木を生かした木工の試みは今もよく知られています。風土を生かした、ほんもののものづくりを実践すること。使う人が幸せになるものは、作る人も幸せにすること。それこそが、経済のためではなく、人間のための経済を回していくことを、私たちに伝えてくれました。

  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます