計画していなかった姉妹店
窓から射しこむ自然光とランプの灯。さまざまな光の色。
「姉妹店をつくることは、高橋から電話がかかってくるまでは考えていなかったんです」と畑さんは語ります。
その時期、高橋さんは人生の進路を決めかねていたようです。かつての職場の良き先輩だった畑さんに相談したことをきっかけに、以前からあたためていた象工場のようなカフェをつくりたいという想いが、実現に向けて動きだすことになりました。
開店初日、扉近くのしつらい。
窓の外の猥雑な日常風景とは別世界。
努力してそうしているのではなく、身についたものが素直にあらわれている、そんな快さを感じる立ち居ふるまいです。
ムーンファクトリー・コーヒーと命名したのは高橋さん自身でした。
「月が好きなんです、とくに消えそうな三日月が」と彼女は言います。
黄昏どき、夕日や雲の色彩に目を奪われたあとでふっと視線をひるがえすと、そこにひっそりと、一本の銀色のまつげのように浮かんでいる三日月。ほとんどだれにも気づかれないような、はかない美しさ。
ひきだしの底、1962年の日付が入った古い落書き。
「お店に来た友人がみつけたんですよ」と、高橋さんはひきだしをそっと開けてみせてくれました。並んでいたのは1962年の2月の日付と、数名の名前。遠い日の筆跡が想像力をかきたてます。
ここで人と人が出会っていくことが嬉しい、と高橋さんは語ります。次ページでどうぞ。