多様化しつつある結婚の形
事実婚はどこまで夫婦の権利が認められる?
この生涯未婚率という言葉ですが、実は50歳までに一度も婚姻届を出さない人の割合をいいます。ですから、50歳を過ぎてから結婚する人や、婚姻届を出さないまま事実上の結婚生活を送る事実婚状態にある人も、生涯未婚に含まれています。
平成17年の国民生活白書には、事実婚を選択する理由についてのアンケート調査が掲載されています。事実婚を望む女性の回答では、第1位が「夫婦別姓を通すため」で89.3%、第2位が「戸籍制度に反対」で86.8%、第3位が「性関係はプライベートなことなので国に届ける必要を感じない」で70.8%となっています。
一方で男性の回答を見ると、第1位が「戸籍制度に反対」で70.7%、第2位が「相手の非婚の生き方の尊重」で63.3%となっています。この回答からは、名前を変えること、夫の戸籍に入ることに疑問を感じている女性の意見を尊重して事実婚が選ばれていることがわかります。
ではなぜ、夫婦別姓にこだわるのでしょうか?その大きな理由のひとつとして、結婚を機に名字が変わることが、仕事の上で大きなデメリットとなることがあげられます。名前を覚えてもらうことはキャリア形成の第一歩。長年かけて築いたその信頼を、結婚を機にリセットすることへの抵抗感があるのです。
仕事の場で名前が変わるデメリットを考慮して、結婚をした後も職場で旧姓を使用し続ける女性が増えています。しかし、旧姓使用では、戸籍名で記載されるパスポートと仕事で使う姓が異なる、給与口座名と仕事で使う姓が異なるなど、さまざまなシーンで不便を強いられるという状況があります。
税法は事実婚に厳しい
さまざまな事情から、役所に婚姻届を出さないまま事実上の結婚生活をしている事実婚夫婦に、どこまで夫婦としての権利が認められるのでしょうか?日本の法律では、戸籍をとても重視しています。そのため税法では、事実婚はあくまでも非婚扱いとなります。そのため、収入がない専業主婦(主夫)であっても、税法では扶養家族と認められないため、配偶者控除や配偶者特別控除など税金の優遇は認められません。
さらに深刻なのは、相続の場面です。通常、亡くなった人の財産は、配偶者がいれば配偶者に相続されます。しかし、たとえ長年一緒に暮らして共に財産を築いてきたとしても、事実婚のパートナーには法定相続人としての権利は認められません。そのため、事実婚のパートナーの死をきっかけに、それまで築いた財産を失って、さらに住み慣れた家を追われるといった事態にもなりかねないのです。
もしもの時に困らないように、事実婚カップルはお互いの財産について遺言書等で取り決めをしておいた方がいいでしょう。
年金や健康保険は事実婚でも扶養家族になれる
戸籍や法律上の取り決めを重視する税金に対して、年金や健康保険といった社会保険では「一緒に夫婦として生活をしている」という事実を重視しています。そのため、結婚生活をともにしているという事実が示せれば、年金や健康保険上で家族としての保障を受けることができます。世帯主が会社員や公務員をしている場合、年収130万円未満の事実婚パートナーは、国民年金の第3号被保険者や健康保険の被扶養者になることができます。扶養の手続きをするときには、戸籍や住民票を提出します。同一の戸籍に入っていない事実婚では、同居の事実を示す住民票が大きな役割を果たします。役所に住民票を届け出るときには、夫(未届)、妻(未届)と記入しておきましょう。
また、事実婚であっても、一緒に生活を共にしていたという事実が示せれば、死亡時には一般的な家族と同様に、パートナーが遺族年金を受け取ることができます。
もしもの場合の話が出たので、あわせて民間の生命保険についても話をしておきましょう。民間の生命保険会社では、通常、受取人を配偶者もしくは2親等内の血族としています。そのため、事実婚のパートナーを保険金の受取人にすることはとても難しいと覚えておきましょう。追加書類の提出や家庭訪問など特別な審査をパスすることを条件に、一定金額の範囲内で事実婚カップルの保険の引き受けをしている保険会社もあります。事実婚に対してどのような対応をしているか、複数の保険会社に問い合わせをしてみるといいでしょう。
日本での事実婚を取り巻く状況
フランスなどでは事実婚カップルにも戸籍上の夫婦と同等の権利が認められており、子どもも事実婚のまま不自由なく育てることができます。婚姻の自由度が広くなった結果、フランスでは近年出生率も上昇しています。日本では2015年12月に「夫婦別姓は違憲ではない」という判決が最高裁によって出されました。しかし、結婚を機に(主に女性が)名字を変えるということは、国際的にみると決して当たり前のことではありません。結婚の多様な在り方や、実態にあった制度の整備が今後も議論されることを期待します。