ガーダシルは子宮頸がんだけんでなく尖圭コンジローマも予防できます
サーバリックスとガーダシルの違い
日本では2009年に、最初のヒトパピローマウイルスワクチン「サーバリックス」が発売されました。サーバリックスは、「子宮頸がん予防ワクチン」として大々的に宣伝され、自治体が10代の女性に補助を出したために、接種者が昨年から急増し、品薄状態が長く続いています。サーバリックスとガーダシルは、どちらもヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するためのワクチンです。少し専門的な解説をすると、サーバリックスは16型と18型の2種の型のHPV感染を防御するためのワクチンで、「2価ワクチン」と呼ばれています。一方でガーダシルは、16型と18型に加えて、6型と11型の4種の型のHPV感染を防御する「4価ワクチン」です。これらのワクチンはそれぞれが予防できる型以外のHPVには予防効果を期待できません。
ガーダシルにはサーバリックスには含まれていない、2種類の抗原が含まれていますが、これは子宮頸がんには関わりは薄く、主に尖圭コンジローマの予防のためです。従って、子宮頸がんの予防という観点でいうと、この2種類のワクチンには大きな差はありません。
また、製法はほぼ同じで、遺伝子再重合という手法でウイルスに似た粒子を生成して抗原とし、そこに免疫増強剤(アジュバント)を加えて、抗原性を強化したワクチンで、7年以上は100%感染を阻止することができる極めて強力なワクチンです。
若い女性に増えている子宮頸がんとHPVの関係
子宮頸がんは、女性特有のがんとしては、乳がんについで罹患率が高く、特に20~30代のがんでは第1位となっています。日本では、毎年約10,000人もの女性が新たに子宮頸がんにかかり、約3,500人が子宮頸がんで亡くなっています。これは、1日に約10人の方がなくなっている計算になります。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因で起こることが知られています。HPVはとてもありふれたウイルスで、性交渉の経験のある女性の80%以上が、50歳までに感染を経験するといわれています。特に若い女性の感染率は非常に高いといわれています。
HPVには100種類以上の型があり、中でも15種類程度ががんを引き起こす可能性がある「高リスク型」と呼ばれています。子宮頸がんの患者さんでは、いずれかのタイプの高リスク型HPVの感染が、ほぼ100%検出されます。このうち16型、18型が子宮頸がんの原因の約65%を占めています。また、がんを引き起こす可能性のないものは「低リスク型」と呼ばれています。
高リスク型HPVに感染したからといって症状は何もありませんし、すぐにがんが発症するわけではありません。人間の免疫力によって、多くの場合は体から自然にウイルスが排除されます。しかし、この機能がうまく働かずにウイルスが子宮頸部に残り、感染が長く続いた場合、5年以上かけてがんへと進行していくことがあります。
HPVが原因で起きるもうひとつの病気……尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマとは、直径1~3mm前後のイボが性器や肛門のまわりにできる病気で、6型、11型の低リスク型HPV感染が主な原因です。痛みやかゆみがほとんどなく、様々な形状のイボができます。大きくなるとカリフラワーやニワトリのトサカのような状態になることもあります。再発しやすく完治は難しいのですが、がんとは異なる良性の病気です。但し、妊娠している女性が尖圭コンジローマにかかると、出産するときに赤ちゃんにHPVが感染してしまう可能性があります。生まれてきた赤ちゃんがHPVに感染した場合、ごくまれですがのどにいぼができる「再発性呼吸器乳頭腫症」という病気を発症してしまうこともあります。この場合、声が枯れたり、イボが大きくなることで呼吸困難になり命にかかわることもあります。そのため、膣内にコンジローマが多発している場合や非常に大きなコンジローマがある場合は、帝王切開が必要になることがあります。
HPVワクチンの実際
ワクチンの接種方法は基本的に同一ですが、サーバリックスは0、1、6ヶ月後の3回接種で、ガーダシルは0、2、6ヶ月後の3回接種です。接種は筋肉注射で、サーバリックスは肩の三角筋部のみの接種とされていますが、ガーダシルは肩以外に太腿への注射も認められています。ガーダシルが発売された時点で、サーバリックスと同等の扱いとなり補助も出るようです。海外での両者を比較した2009年のデータによると、接種後の腫れや痛み、接種後の熱やだるさなどの症状は、いずれもサーバリックスの方が、やや多い、という結果でした。接種後の失神や気絶は、10万人に1人弱くらいの比率で認められています。これはガーダシルのデータですが、サーバリックスでもそれほどの差はないと考えられます。妊娠中の使用については、サーバリックに関しては「延期が望ましい」という表現で、ガーダシルは「妊娠中の接種は避けること」ともう少し踏み込んだ表現になっています。
注意する点は、これらのワクチンはHPV感染が成立する前に接種しないと有効性は全くない、ということです。感染は性交渉と共に増加するので、なるべく性交渉を開始する前に接種することで有用性が高くなります。未感染者の7割に予防効果が期待出来る一方、20~30歳の接種で5割、45歳での接種では3割程度の予防効果となると推定されています。日本では45歳まではワクチンを推奨する、という意見がありますが、このワクチンは10代で接種してこそ、その有用性が発揮されるものです。