旅館/ちょっと高めの隠れ宿・旅館

予約の取れない宿 須賀川温泉「おとぎの宿米屋」(2ページ目)

予約がなかなか取れないことで有名だった「おとぎの宿米屋」(福島県須賀川温泉)。震災後、風評被害にさらされてしまったが、今なら取れる。2011年6月には、リニューアルオープンした米屋。リピーター絶賛の「おとぎ会席」と、すばらしい源泉大浴場を、今だからこそ、体験してきた。まさに、そこには、マジックが隠されていた。

井門 隆夫

執筆者:井門 隆夫

旅館ガイド

「みたて」のマジック

食事の乾杯を終え、夕食が始まるとまもなく、天井の照明が消え、接客係さんが前菜の一品を運んでくる。手元で青く光っているのは竹筒。リピーターを生む「おとぎ会席」の夏バージョン「かぐや姫」のはじまり、はじまり!

この夕食こそが、リピーターを生み、予約が埋まる「他の宿にない第一の秘訣」だ。

米屋

灯りが消え、青く光る前菜(竹筒に眠るかぐや姫)の登場

「むかし、あるところに、おじいさんが光る竹を見つけたといいます」。接客係さんの口調に思わず笑顔がこぼれる。子供だましのように聞こえるかもしれないが、誰もが知っているおとぎ話を、今回の献立でどう表現しているのか、興味津々の「大人」のリピーター客が楽しみにしている瞬間だ。

青く光っているのはLED。竹筒の中には、笹に隠れ、かぐや姫に見立てたミョウガ寿司が眠っている。百合根を裏ごしし、丸めた百合根玉にミョウガをかぶせた姿は、おくるみにくるまった赤ん坊にみたてた。その後、デザートまで、かぐや姫の物語にそった数々の「みたて」のマジックが続き、その度に心がなごまされる。この宿には、日常のストレスが積み重なる女性が「癒されに行きたい」と言って繰り返し来るケースが多いそう。 

米屋

おとぎ会席「かぐや姫」。献立(おとぎ話)は四季ごとに変わるごとに

献立は四季ごとに変わる。「かちかち山」の時は、タヌキに見立てた茄子が朴葉味噌の上で焼かれていく。朴葉の下からドライアイスの白い煙を立たせつつ運んでくるのがミソだ。ゼラチンで固めた割り下を「泥船」にみたてたすき焼き鍋に火が点けられると、泥船がとけていき、おどき話はクライマックスを迎える、という具合だ。

「桃太郎」「おやゆび姫」「シンデレラ」と、女将と料理長が二人三脚で考え続けた物語は23話にものぼる。この秋からは「さるかに合戦」。柿の種も登場する。 

勝ち組のサイクル

米屋

米屋のロビー。あちこちに暖炉が燃え、冬にはいい雰囲気を醸しだすだろう

いまや、名シナリオライターである女将も、かつては着物を着て客前でお辞儀を繰り返していたという。しかし、お客様を楽しませる方法はもっと他にあるのではないかと考え続けた試行錯誤が、おとぎ話につながった。

もちろん、夕食だけではなく、素晴らしい温泉や社員のサービスがあってこそ。例えば、夕食会場に炭を運んでくる人気者社員は「炭おじさん」とリピーター客から慕われる。ライブラリーでは23時まで、ドリンクをサービスしてくれる。滞在中、まるで絵本のなかにいるように肩ひじ張らずに過ごせる楽しさが宿泊客のストレスを解いてくれるのだ。 

米屋

各部屋の椅子は、かなり凝った物が置いてある

「お客様に笑ってもらえるのが何より嬉しい」。女将がそう語れるようになるまでは苦難の道のりだった。しかし、その「時間」が「参入障壁」となった。誰もが簡単にできる秘訣を盗もうと視察に来る同業者はその点がなかなかわからない。リピーターはクチコミで広がっていく。クチコミが広がるには、時間がかかるのだ。しかし、どこかでスタートしなくては、永遠にリピーターは生まれない。

「おとぎ話」がリピーターを生み、リピーターが高い客室稼働率を生む。安定した稼働率が安定雇用を生み、安定雇用がスタッフを育てる。そして、米屋を支えるスタッフこそが、おとぎ話の演出家となり、リピーターを育てる。この「勝ち組のサイクル」こそが、人口減少時代の日本の宿を支えていくのだろう。

皆さんも、おとぎ話を実際に体験してはいかがだろう。今だからこそ、福島を応援したい。予約も取れるし。 

■ おとぎの宿米屋
住所:福島県須賀川市岩渕字笠木168-2
TEL:0248-62-7200
地図:Yahoo!地図情報
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