半年で滞納を解消した豪腕女性オーナー
もうひとりのあるご高齢のオーナーさんは、10室ほどのアパートを所有し、自主管理していて、賃貸経営については自分の奥さんにも娘さんにも一切さわらせませんでした。ところがある日、このオーナーさんが病気で倒れて入院することになり、既に結婚していた娘さんがお父さんに代わって賃貸物件の管理をすることになりました。ところが実際に代わってみてわかったのは、お父さんの管理が非常にルーズで、10世帯のうちなんと8世帯までが家賃を滞納しているという事実でした。滞納期間も平均で2年に及び、一番長く滞納していた入居者はなんと5年半にわたって家賃を払っていなかったのです。もはや滞納が当たり前になってしまっている、ひどい状況でした。
しかし、この娘さんは非常に勝気な人でした。「こんなずさんなことは許せない」と決意した彼女は、回収に全エネルギーを注ぎ込み、半年の間、毎日毎日アパートに通い詰めて、とうとう全て回収することに成功したのです。
そのときは入居者たちと散々に言い争い、いわゆる夜討ち朝駆けで、法律すれすれの追い込みをかけていたようです。午前中に督促に行って、気が収まらずに午後にまた督促に行くという風でした。またそのときの口調も大変にきついもので、あまりにもひどい罵詈雑言を吐くので、ある入居者がいきりたって、この女性を突き飛ばしてしまったことがありました。
すると彼女はすぐさまパトカーを呼んで、暴行されたと訴え、入居者は警察に連行されたのです。また、法的には何件かの少額訴訟を起こしたり、契約者である父親と同居している息子さんの会社にまで乗り込んだりもしました。
そうやってオーナーさんは、彼女のお父さんが何年間も放置していた滞納家賃を半年で回収することに成功したのです。
そこまでやれたのは、よほど気丈な人だったからでしょうが、全精力を家賃回収に費やしたおかげで、家庭は放り出すことになってしまい、家庭内でもいさかいが起きていたようです。
お父さんがルーズな管理をしたために自分がこんな思いをすることになったのだと思い詰めたこの人は、病気で入院しているお父さんをお見舞いしたときに、「このまま死んで」と言い放ったのだそうです。ご本人が笑いながら「父に『死ね』って言っちゃいました」とおっしゃいました。しかし、その時に目が笑っておられなかったので、これは非常に危険な精神状態だと感じ、私はとても心配になりました。
激しい督促を続けていると、ご本人も精神的に強いストレスを受けることになります。その意味では、ご自分の力で滞納家賃の回収はできたけれども、それによってご本人が幸せになれたかどうかは微妙なところです。
いずれにしても家賃滞納は、放置するとこのように大変なことになるのです。面倒だからと言って、目をそむけてはいけない問題です。