私たちは、燃えそうで燃え上がらない「くすぶり続ける」慢性炎症をコントロールすることはできません。たぶん、これは「氷河時代を生き延びてきた人類の遺伝子が、高カロリー、高脂肪の有り余る食物や運動不足、喫煙や高度加工食品のような刺激に対応できず、体が過剰に反応しているのだ」という説が真実味を帯びてきます。
これらの悪しき生活習慣とともに、現代人が知らず知らずの内に大量に摂取している不飽和脂肪酸のリノール酸が炎症をあおっているという研究があります。詳しいことは後述しますが、食べた物によって、場所が特定できない、本質的な炎症があおられたり、鎮められたりするのなら、また、それによって合併症の進行にブレーキを掛けられるのなら、食事の質を見直すのも大切なことです。
肥満による炎症から2型糖尿病への進行は前回記事で解説しました。2型糖尿病になってしまえば炎症は鎮まるか、といえばそうではないのです。他の疾病を含む17,000人の定期診察外来患者の血液検査で、各患者の総血球数をカウントしたところ、2型糖尿病患者の白血球と血小板の数は、やはり非糖尿病者よりも多かったのです。これは2007年9月にアムステルダムで開かれた欧州糖尿病研究会議でアメリカの研究者が発表したものです。白血球と血小板は炎症マーカーとしてカウントしました。白血球の数はBMIとは関係なく糖尿病患者で高く、特にインスリン治療群で目立ちました。血小板の数はBMI 25未満でも糖尿病患者はやや高かったのです。
やはり、2型糖尿病は慢性炎症状態なのです。10年、20年と続く炎症を抑える薬は、はたして開発できるのでしょうか?
まだ影も見えない新薬を待つよりも、炎症を鎮めるシンプルなchange!から始めましょう。
抗炎症ダイエット(Anti-Inflammatory Diet)
もっと野菜と果物を!写真はバルセロナの下町の八百屋さん。(2010.06)チェリーが3ユーロ/kgと書いてあります。なんと、340円!?
この分野の研究に積極的なハーバード大学メディカルスクールから、ちょっとした小さな変化で慢性炎症を鎮める提案が出されています。
1. 油をチェンジ!
動物性食材に多い飽和脂肪酸や加工食品に含まれるトランス型脂肪酸は炎症をあおり立てます。オリーブオイルに取り替えましょう。オリーブオイルには抗炎症作用があります。多価不飽和脂肪酸、特に魚に多いα-リノレン酸もお薦め。
2. なるべく精白してない食材を
食事やスナックで食べやすい精製・精白した炭水化物食品(真っ白いパンや白米ご飯、フレンチ・フライ・ポテト、砂糖入りソフトドリンクetc)を取ると、血糖が急に上がって炎症メッセンジャーのサイトカインのレベルが上がります。
玄米や全粒粉のパンやパスタで食後血糖上昇を緩やかにすればサイトカイン生成も抑えられます。
3. もっと食べよう、野菜とフルーツ
たっぷりの野菜とフルーツは炎症を鎮めます。数百、数千という植物由来の化学物質が炎症のフリーラジカル生成を抑え、またあるものは直接に抗炎作用を持っています。抗炎症薬アスピリンの基になったサリチル酸も植物成分です。植物が病原体に侵されるとサリチル酸を大量に作って対抗するそうです。サリチル酸は日常的な野菜、フルーツにも含まれています。
4. ナッツ類をもっと!
クルミやアーモンド、ピーナッツetcを食事やスナックに上手に使ってみましょう。美味な動物性脂肪の代わりになります。ナッツはヘルシーな油脂と高タンパク食品で微量栄養素も豊富。アメリカの疫学調査でも、週数回はナッツを食べている人は30~50%の心臓発作のリスクが下がることが証明されています。高カロリーですから、ポテトチップスやチョコレートが食べたいときにどうぞ。
5. ココアやチョコレート好きも喜びそう!
研究室のレベルですが、ココアやダークチョコレートが炎症物質の発生を下げるようです。ただし、砂糖と脂肪の取り過ぎは禁物ですね。
6. ほどほどのアルコール
適量のアルコールは、強力な炎症マーカーであるCRP(C反応性タンパク質)を下げるようです。もちろん、飲み過ぎはその逆になりますが。
7. スパイスを使いこなそう!
ハーブやスパイスには抗炎症作用があります。ニンニク、ショウガ、ターメリック、バジル、コショウetc
こういうヘルシー食を心掛けても、何かの症状がすぐ良くなるわけではありません。でも体の中は少しずつ補修されていると思います。
上記のアドバイスは何かに似ていませんか? そうです。地中海型食生活そのものですね!日本のヘルシーな食習慣に、地中海型の食材を少しプラスしてみましょう。地中海型食生活が心臓発作の再発を抑える、つまり炎症を減らすという治験はいろいろありますよ。
最後になりましたが、リノール酸もα-リノレン酸も同じように食品から取らなくてはならない必須脂肪酸です。これらはオイルというより、細胞膜に取り入れて生理活性物質の原料になるものです。現代人の体にはリノール酸由来の炎症物質が多いのですが、家畜飼料にトウモロコシが使われるためにトウモロコシからのリノール酸が現代人の食生活に過剰にあるのです。
つまり、バランスが炎症に傾いています。
意識してリノール酸系(オメガ-6)を減らしてα-リノレン酸系(オメガ-3)を増やすことが勧められています。
だからオリーブオイルと魚、野菜、フルーツ、全粒穀物や豆の地中海型、つまり抗炎症ダイエットが注目されているのです。
■記事リンク
オメガ-3脂肪酸は魚と野菜から
地中海型食生活の秘密発見!
柔軟な菜食…フレキシタリアンも糖尿病食におすすめ!