不妊症/全国の不妊治療の病院・クリニック・治療院

浅田レディースクリニック 浅田義正院長取材―前編(2ページ目)

フジテレビの番組『エチカの鏡』でご存じの方も多いと思います。浅田レディースクリニックの浅田院長先生にみっちりと話して頂きました。

執筆者:池上 文尋


浅田先生は顕微授精にこだわりを持って治療しているという面では日本で稀有な存在ですが、顕微授精の先のイノベーションは可能性があるでしょうか?

顕微授精の最初の成功例は1992年。日本で私がICSIを始めたのは1995年でした。顕微授精以上のイノベーションはそれからはないです。

次にあるとすれば、「再生医療」。幹細胞を作って、そこから卵を作り、精子を作る、というのが一番のイノベーションだと思います。歳をとっても、若い細胞の状態に戻して、年齢を経ていない卵を作ることができたら、不妊治療は飛躍的に向上します。

micro

浅田院長がこだわりを持つ顕微授精の画像です。

精子がない人が精子を作ることができれば大きな変化です。卵子を作る、精子を作るというのは倫理的問題があるのでわかりませんが、技術的には意外に早く可能になると思います。

今まで、クローンを作るとかそういったことで議論がされていますが、精子を作るということは、同じ子供ができることではなく、受精したらそれぞれの生物の多様性ができ、そういう意味ではクローンをつくるというのとは違ってきます。

それから、幹細胞は皮膚とかいろいろなところに供給され細胞を入れ替えるのを手伝っていますから、子宮内膜の薄い人に幹細胞で治療することも可能だと思います。

名古屋に新しくクリニックを設立され、私も見学させていただきましたが、名古屋駅前に作った目的と主旨を教えてください。

名古屋駅前クリニックを作ろうと思っていろいろと動いていたわけではありません。名古屋駅前クリニックを作った一番の理由はいくつかあるのですが、もともと勝川クリニックがキャパシティオーバーで、治療を受けられないというケースが増え、なんとかしなければいけないと思っていました。

また、遠くから通われている方が多く、利便性のあるところがいいのかなとも思っていました。勝川クリニックを拡張するか、クリニックを2つにするのがいいのかなとぼんやり思っていました。

そのように考えているところに突然、名古屋ビルディングの話が来ました。名古屋ビルディングの話は私にとってビックリするような話でした。名古屋駅前で一等地、ロータリーが見渡せるところに私が理想とするクリニックを作らせてくれるのかと驚きました。
entrance

浅田レディースクリニック(名古屋駅前)の入口です。


名古屋駅前でクリニックを持っている先生で、ちゃんとした培養室をもっている先生はいません。培養室を作らせてくれるのか不安でしたが、培養室を作る事にも賛成してくれました。

物品の搬入、ボンベを運んだり、液体窒素を運んだりするのに非常に便利で、業者さんの出入りもしやすい。勝川クリニックのビルのような欠点がなく、表の顔だけでなく、裏の顔も気に入りました。

いつまでに開院するという期限の約束があったので、とりあえず開院しようということになりました。私はこういう企画でやろうとか、ここでやるにはどうしたらいいのか、銀行からお金を借りるとか、マーケティングをするとか、患者さんからどのぐらいの収益が出るという計算を全く考えませんでした。

私の思い入れだけでスタートしたクリニックです。不妊症の患者さんが私に言うように「悔いがないように」と一緒です。私の脳裏には、これを諦めた数年後に、私が反対側のビルからこのビルを指差し、あそこに入る予定だったと悔しがっている自分の姿が想像できました。それも非常にリアルにそのセリフを言いながら…。

不妊治療と一緒で後悔しないようにやることが、自分にも一番エネルギーが沸きます。全員ついてきてくれるのかわからないし、お金があるかわからない、もう前を向いて走るしかない。そういう時に私に決心を迫ったのがこのビルでした。

時間的猶予はない。やるからには世界の誰が見に来ても恥ずかしくないクリニックを作る。クリニックの中枢である培養・体外受精のレベルで勝負をする。規模はともかくレベルとして世界一の培養室を作るという計画のもとで進みました。

培養室始め、最先端の施設だと思いますが、設計上、先生がここだけは譲れないとこだわったポイントを教えて頂けますか?

最も設計の中で問題になったのは、培養室の空調設備です。勝川クリニックもそうですが、天井にクリーンルーム専用の機械をおいて、その機械には噴き出すクリーンなエアーと吹き込むエアーがあり、一定の広さのところに、一時間に何回も空気を回し、それによって綺麗な空気を確保するというシステムが一般的です。

勝川クリニックでは、クリーン度をあげようとすると噴き出しが強くなり、何回も空気をまわさなければいけないので、培養器の温度にも関わる部屋の中の温度分布が変化し、作業に支障をきたします。これが今までのクリーンルームの最大の欠点でした。ここをなんとかしなければならないと思いました。

清水建設の方は、2回目の打合せぐらいまではそれしかできないとずっと言い張っていました。私はそれでは意味がないと喧嘩ごしでした。いろいろな企業にプレゼンテーションを頼み、ある企業が、このような広さでも、吹き出しがいくつもあって、床下から吸い込む、つまり天井から綺麗な空気が層のように流れる仕組みができるのではないかという提案をしてきました。
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培養室内部の写真です。我々は入れないので培養室立ち上げ前の写真を頂きました。


私のこだわりは、作業をしていて空気の流れを感じさせないクリーンルームです。それができなかったら今ここにクリーンルームを作る意味がないと思いました。勝川クリニックと何も変わらないじゃないか、ということをさんざん清水建設に言いましたが、清水建設はそれでも出来ないと言い張っていました。

層流方式を提案をした会社がそう言った時に、清水建設の現場監督が興奮して立ち上がり、「本当にできると思っているのか」と、反論した時は驚きました。「できる」と言った企業の若いエンジニアは、わりと冷静に電卓をはじきながら、「できると思います」と落ち着いていました。

その時になぜか私はこれでえらいことになったと思ったのではなく、これでやっとできると思いました。どうしてかというと、最初からそこまでやるつもりがなかった清水建設が今まで出来ない理由ばかり言っていたのですが、初めてそこでどうしたらできるのか真剣に考え始めたのです。

こういう理由で出来ないという理由を出したら、それに対してこういう対策が打てる。その結果、当院の理想とする培養室が実現しました。その時がまさに私にとってのターニングポイントになりました。これで新しいプロジェクトがひとつにまとまり動きました。

2010年8月開院予定でしたが、4月途中の段階でした。その設計だけで2カ月ぐらい遅れました。綺麗な空気を要求するため、ホルマリンがでない天然素材の床にし、静電気を逃がすものにするなど、いろいろ話をするたびに建築費がはね上がりどうなることかと思いました。苦渋の決断をしていったわけです。

クリーンルームの照明は紫外線がでない蛍光灯だけで済ませれば30万で出来ますが、LEDの特別な仕様で注文をしたら300万円かかりました。紫外線を防ぐにはLEDにしておいた方がいいだろうと。私にとっては大変でしたが、すべてラボのための完璧なクリーンルームにこだわりました。これだけこだわったので、患者さんの安心のためにも見せたいということで見学ルームも作りました。

後編に続く

■取材クリニック:浅田レディースクリニック
www.ivf-asada.jp/

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