昨年1年間と最近3ヶ月の比較
大震災を経て、価値観や人生観にも影響が
3月11日の東日本大震災の津波の被害は甚大なもので、被災地の人達の人生を変えてしまったのはもちろん、被害の様子を毎日のように報道で見ていた日本中の人たちの社会観、人生観にもあらためて大きな影響を与えました。
ではそのことが名づけに影響しているでしょうか。そこで海に関係する文字が名前にどの程度使われたかという、文字の使用頻度、人気度を比較してみたいと思います。昨年1年間の統計と、震災以後の約3ヶ月間(3~6月)の統計を比べてみますと、ます海に関する文字で人気順位の下がった字があります。
海の字(海斗、優海などの名前で使われる) 38位 → 78位
津の字(奈津美など女の子の名に使われる) 382位 → (圏外)
つまり津波の津の字は、もともとあまり多くは使われていなかった字ですが、震災後は今のところまったく候補の名前には出てきませんので、順位が言えないということになります。
しかしながら、震災以後に海に関する字が敬遠されているのかといえば、そうとも言えません。たとえば海に関係する次の字は、昨年1年間と震災後3ヶ月間では、人気順位は同じか、むしろ上がっています。
航の字(航、航太、航介などの名前に入る) 38位 → 38位(同じ)
帆の字(美帆、帆乃花などの名前で使われる) 56位 → 16位
洋の字(洋平、洋介などの名前で使われる) 382位 → 194位
波の字(帆波、美波、穂波の名前に使われる) 274位 → 199位
このうち穂波という名前は熟語で、海とは関係なく、秋の季節を表現したい時によくつけられます。ちなみに三陸の陸の字については、やや人気順位は下がっています。
陸の字(陸の一字で男の子の名前によく使われる) 106位 → 196位
今後の傾向はまだ予想できない
日本人は海とともに生きてきた
このようにみますと、震災が名づけに影響している、とまでは今の時点では断定できません。やはり海とともに生きてきた日本人には、海を嫌う、怨むという発想はないのではないかと思われます。また海に関する字、海のイメージをあらわす名前は、毎年夏の季節に多くなりますので、今年も夏の季節が終わってみないと、4~6月の集計だけでは何ともわからないのです。
ちなみに昔、関東大震災の年に生まれた子が「震太郎」と名づけられたという例はあったようです。今回も震災の生々しい印象が薄れてゆくにしたがって、名づけへの影響もまったく見られなくなるかもしれません。でも名前の傾向がどうあれ、災害そのものは忘れた頃にやってきますから、震災の記憶だけはできるだけ永くもち続けなければならないでしょう。