夫と妻。片方が主導権を握ると……
これまで、私は取材を通じてたくさんの家に伺い、多くの施主の方々とお話をしてきました。それらの体験から、夫の意見が多く反映された男性主導で建てられた家と、妻が熱心に家づくりを進めた女性主導の家があると感じています。自分の家を建てるとき、予算や立地条件などの制約はあるものの、だれもが思った通りの家、自分の思い描いた実現させた家を建てたいと考えると思います。けれども、それは夫または妻のどちらか一方が主導権を握ってすべてを決めてしまうのではなく、家族全員の希望がおおむね反映された家であってほしいと思います。なぜなら、どちらかの意見が一方的に重視されて建てられた家は完成後に問題が発生したり、重要なことが忘れ去られていることがあるからです。
では、男性主導で建てた家と女性主導で建てた家のそれぞれの特色と、片方が主導権を握った場合のデメリットについて説明していきましょう。
男性は家の性能が気になる
男性主導で建てられた家の特色として一番に挙げられるのが基本性能を重視している点です。男性は住宅の基本性能など、大枠に目がいくぶん、細かな部分には配慮にかける傾向があるようです
男性の多くは、どちらかというと、耐震性や耐久性、断熱・気密性能など住宅の基本性能に関心が高く、熱心に情報収集を行い、実験データや性能の数値などを比較して、これはという住宅メーカーを選び出すのが得意なようです。また、建築後の保証やアフターメンテナンスについて家づくりの初期段階から話題にするのも、男性のほうが多い気がします。
基本性能や保証の問題は住宅そのものの根幹に関わる部分ですし、完成後に検討するのでは遅い問題なので、こういった分野で男性が主導権を握って追求していくのは大きなメリットだといえるでしょう。
生活のしやすさへの配慮が不足?
住宅の基本性能のように大枠の項目に目がいくぶん、生活のしやすさなど細かな部分への配慮に欠ける傾向がみられるのも男性主導の家づくりの特色です。例えば、収納。リビングのようにいろいろなものが集まり家族が集う場所は、実は、綿密な収納計画が必要なのですが、男性はそのことに気がつかないことがあります。いざ、暮らし始めてみたら、新聞や常備薬、メガネ、爪切りなど生活用品をしまう場所が確保されておらず、リビングが片づかないといった例も見かけます。
リビングのように家族が集まり、たくさんのものが持ち込まれる空間には適切な量の収納を設けたほうが片付くでしょう
また、家事動線を無視した間取りをつくりやすいのも男性です。キッチンを中心とした水まわりへの配慮、洗濯機と洗濯物を干すベランダとの位置関係など、家事をするときの状況や家族の動きを思い描けていないと、とても不便な家になってしまいます。以前、取材した家で、1階にある洗濯機から洗濯物を持って3階のベランダまで階段を上り下りするのがつらいとこぼしていた奥様の話が今でも印象に残っています。
こうなると、家づくりの主導権は女性が握ったほうがよさそうですが、女性がつくる家も、案外、怖い問題を抱えていることがあります。
女性は見た目を重視
女性の家づくりの特色は、見た目重視といったところでしょうか。室内の素材選びや建具の色などインテリアに関することや、窓のデザインなど、見た目に関わる部分に目がいきがちです。また、収納の位置や棚のつけ方、システムキッチンの配列やエアコンの位置、さらに子どもの安全性を考えて角をラウンドさせた壁など、細かな部分への注文が多いのも女性ならではです。
女性は暮らしやすさを左右する細かな設計に気配りができるぶん、住宅の根幹を揺るがす部分を忘れがち?
もちろん、これらのこと自体はデメリットではありません。細かな配慮は、完成後の生活のしやすさに影響することだからです。
女性が建てる家は怖い!?
問題なのは、建物の耐震性や耐久性など、家の基本性能にあまり関心のないことです。これらは実感しにくいことですが、後々、大きな問題になる可能性を秘めている項目でもあります。新築間もなくはどこもきれいで、家を建ててよかったと実感すると思います。けれども、月日が流れ、10年、20年経っていくうちに耐久性やメンテナンスのしやすさなど、性能に関係する部分が気になってくるでしょう。耐震性のように、命に関わる性能もありますし、同時期に建築したよそのお宅に比べて、大きく性能差があることがわかったら、途端にわが家への愛着は薄れてしまうかもしれませんね。
さらに、怖いのは女性は自分の夢や希望を追うあまり、家づくりを急いでしまう傾向があることです。そのため、施工会社を選ぶ場合、その会社の得意分野や実績をあまり考慮せずに選んでしまうケースがあるようなのです。
例えば、大きな吹抜けが夢だったある人の話です。施工を頼んだ工務店は家の強度など設計のハード面に疎く、構造計算などもしなかったため、完成後に家のあちらこちらに亀裂が入ってしまいました。恐らく、家のどこかに構造上の無理があり、バランスが悪いのだと考えられます。こうなってしまうと、補修するにしてもかなりの大問題です。
お互いを補い合えばいい家ができる
もちろん、ここで紹介した男性、女性の特色はあくまで私がこれまでの取材で感じた傾向に過ぎません。男性でも細やかな部分にこだわる方もいますし、女性でも性能を気にする方もいるでしょう。ただ、ひとつ言えるのは、男性、女性のどちらかが一方的に自分の主張を押し通し過ぎると、その人が気が付かない、または不得意な部分に意外な落とし穴ができることもあるのです。
これを解決するには、家族みんなの望みをかなえながら、よく話し合って補い合うのがよいでしょう。話し合いの中で、各人が得意な分野を担当して家づくりにあたれば大きな落とし穴にはまることなく、満足のいく家ができ、わが家に愛着も生まれると思うのです。
設計担当者も巻き込んで長い目で見た設計を
このことは夫婦間だけでなく、施工会社の設計担当者にも当てはまります。例えば、30代の夫婦が家を建てる場合、設計担当者が同年代なら話をしやすく、スムーズに家づくりが進行するように思えます。ところが、若い世代ばかりだと、加齢に対する配慮まで思いが至らないことがあるのです。家づくりの際は、家族全員の意見をよく聞き、施工会社やすでに家を建てた人たちの意見にも耳を傾けましょう
30代はまだまだ若い世代です。自分が年齢を重ね、やがて60代、70代になったとき、どういった状態になるのか想像できないことも多いのではないでしょうか。設計担当者がある程度の年齢に達していれば、加齢に対しても、経験からいろいろな配慮や工夫を提案してくれることと思います。
家づくりは私たちにとって一大事業です。せっかくの機会なのですから、家族みんなでアイデアを出し合って、長く快適に暮らせる家を建てたいものです。また、家族や施工会社だけでなく、すでに家を建てた人の体験談も聞いてみるなど、さまざまな意見にも耳を傾け、いい家をつくってください。