意外と多い? 糖尿病者の皮膚トラブル
糖尿病のハンドシンドロームに「祈る人のしるし、prayer sign」があります。皮膚と腱の肥厚で指が真っ直ぐに伸びなくなります。
糖尿病の影響は全身に及ぶため、皮膚も例外ではありません。糖尿病者の約3人に1人は、生涯のある時期に糖尿病による、あるいは糖尿病によって増悪した皮膚トラブルに出合うと言われています。実際のところ、皮膚のトラブルから糖尿病が見つかることもあるのです。幸いにして多くが予防できますし、発見が早ければ治療も容易です。
また、インスリンポンプや持続血糖モニター(CGM)の普及で針を刺したところに新たなスキンケアが必要になります。指導を遵守しましょう。
糖尿病の足のケアでは、皮膚の色の変化や傷の有無を患者自身がチェックすることが大切な毎日の心掛け。糖尿病の合併症には一つの傾向があって、介護の必要な低血糖とか足の壊疽(えそ)などは知識が十分にある人は起こしにくいのです。理由は明白ですね。何か気になることがあれば、糖尿病医か皮膚科医に積極的に相談しましょう。
皮膚トラブルの多くは、誰もがかかるようなものですが、糖尿病があると罹病しやすくなります。例えば細菌性の炎症や真菌(かび)による感染症、「かゆみ」などがそうです。
糖尿病性の皮膚障害としては前脛部に色の付いた斑点が生じるものや、NLD(糖尿病性リポイド類壊死症)、糖尿病性水疱、その他にも1型糖尿病に見られる皮膚の免疫不全による病変などがあります。
糖尿病の皮膚トラブル予防……大切なのは日常のスキンケア
スキンケアの基本は糖尿病コントロールを良くすること。高血糖状態が続くと、体が過剰なブドウ糖を排泄するために尿を多く作ります。それが脱水症状を引き起こし、皮膚がカサカサに乾燥します。自律神経障害で汗腺の活動が低下することも一因になります。このドライスキンがかゆみを起こし、かいた部分から危険なバクテリアが侵入しやすくなります。また、ブドウ糖はバクテリアや真菌の大好物でもあるのです。- 皮膚を清潔に、さらさらに保ってください。特に皮膚と皮膚が触れる「わきの下」や「そけい部」にはタルカム・パウダー(あせ知らず)がいいでしょう。湿気が真菌感染を起こしやすくします。太っていて股擦れに悩んでいる人は特に気配りを。
- 非常に熱い風呂やシャワーを避けること。特に神経障害のある人や高齢者は必ず温度計で確認すること。ドライスキンの人はバブル(泡)バスを使わないこと。ドライスキン用のソープがあります。浴後のローションは標準的なものでいいのですが、足の指の間にはローションを使わないこと。余分な湿気が水虫菌を招きます。
- ドライスキンを予防すること。乾燥して「かゆい」皮膚をかくとバクテリア感染の原因になります。
- 傷は正しく治療すること。小さな傷はソープと水で洗い流してきれいにする。消毒アルコールやマーキュロ、ヨードのような強い薬は使わないこと。過酸化水素水(オキシドール)も傷口の回復を悪くします。医師の許可があれば抗生物質のクリームの軟膏を使ってガーゼで保護します。大きな傷、やけど、炎症のときは直ちに医師のところへ行くように。
- 寒くて乾燥した冬季は室内の加湿を忘れずに。ドライスキンの人は過度の入浴は避けた方がいいかも知れません。
- マイルドなシャンプーを用い、女性用の衛生スプレーは使用しないでください。
インスリン注射と皮膚トラブルの関係
インスリン注射によって皮膚が変化することがあります。インスリンビギナーがまず驚くのは、注射の跡が「あざ」になることがあることです。これは注射針が細小静脈血管を切ったことによる内出血で、数日で消失するので心配ありません。1922年以降、ウシやブタのインスリンを使っていた長い時代がありましたが、その頃は毎日注射する部位の脂肪が無くなって窪みができる悩みもありました。今日のインスリンは心配ありませんが。
それとは逆にいつも注射する部位の皮下脂肪が肥大することがあります。インスリンが脂肪組織を肥大させる作用があるからですね。この「しこり」は無痛ですが、私はどうも同じような部位に注射していると、インスリンがすんなりと注入できないことがあるように感じます。
1型糖尿病で血糖値が乱高下するタイプをブリットル糖尿病と言うのですが、その原因の一つがこの脂肪の固まり(Insulin Hypertrophy)にあります。いつもこの辺りに注射していると、インスリンの吸収が日によって違ってしまうからですね。だから注射の部位はローテーションを組むのです。
皮膚トラブル以外にも?糖尿病の合併症
1. 網膜症網膜症は自覚症状の有無に関わらず、多くの糖尿病患者に診られる合併症です。特に2型糖尿病の場合は、糖尿病と診断された時点ですでに10~20%の人が網膜症を合併しているという報告が日本にもアメリカにもあります。
2. 動脈硬化・血行障害
糖尿病患者は特に膝下のアテローム性動脈硬化が多くなるという傾向があります。血流がとだえると足の組織が壊死し、感染症で足を切断しなければならない可能性も。
3. 腎症
腎症は糖尿病を発症してから15年位は無症状で、やがてタンパク尿が持続するようになり、25年位で透析という推移が考えられています。1型糖尿病者は糖尿病腎症になりやすく、病歴40年で30~50%の人が発症し、遺伝性も強いです。2型糖尿病者も腎症の最後には透析になりますが、そのかなり前の微量アルブミン尿が見られる早朝でも死亡率が高くなる現象があります。
■関連記事
五十肩と糖尿病