今回は、特別講演として、「味覚教育」に詳しい千葉大学教育学部附属小学校 佐藤雅子教諭による、「感じることで食を豊かに~フランスの『味覚教育』を取り入れた食育の進め方」について、講演が行なわれました。「味覚教育」とはどのようなものなのか、味覚教育を導入することで子どもたちにどのような変化があるのか等についてご紹介します。
感性を磨き、表現力を育てる「味覚教育」
千葉大学教育学部附属小学校
佐藤雅子教諭
フランスでは、ピュイゼ博士考案の「ピュイゼメソッド」と呼ばれる「味覚教育」を、過去約30年間で10万人近い子供たちが受けたといわれています。
日本でも2000年頃から「味覚教育」への関心が高まり、佐藤雅子教諭は、千葉県長期研修生として1年間学び、この間にフランスの「味覚教育研修ツアー」に参加されました。フランスでジャック・ピュイゼ博士から直接指導を受け、フランスの学校を視察されました。
これらの経験をもとに、2009年より千葉大学大学院に在籍し、「味覚教育」を取り入れた家庭科の教育の研究を行い、2010年に千葉大学教育学部付属小学校に家庭科専科として着任されました。
「味覚教育」と聞くと、甘味、塩味、苦味などの「味覚」を磨くための取り組みのように思われがちですが、フランスでは、味覚に加えて、視覚、嗅覚、聴覚、触覚という「五感」が活用されています。
さらに佐藤教諭は、「人は、五感を使って食べ物を味わう。そのことが、分析力・判断力を培い、自分を知り、相手を敬う心を育てる。それが人生を豊かにすることにつながる」と述べられました。
自分と向き合い、人との違いを認める
佐藤教諭が、これまで研究、かつ実践された家庭科の授業では、小学校低学年から高学年、中学生と年齢に応じて、内容は異なりますが、五感を使ったエクササイズを行い、同時に「感じたことを表現する」ことが盛り込まれています。「嗅覚」のエクササイズでは、例えば小瓶の中のにおいをかいで、
「好きか、嫌いか」
「何をイメージするか」
と、子どもたちに問いかけます。
「何のにおい?」と問うと、間違えることが嫌なので、なかなか発言しにくいのですが、イメージを問いかけることで、それぞれが自由に発想し、発言しやすくなります。
「月桂樹」の香りをかいで、子どもたちにイメージをたずねると、
「若い草みたい」
「シソみたい」
「ガムをかんでいる時のイメージ」
「ホームセンターをイメージするにおい」
など、感じ方や表現の仕方はさまざまです。
もしも、「トマトのイメージは?」とたずねられても、今までトマトを見たことも、食べたこともなければ、赤い色や、青っぽいにおい、あまずっぱい味など、トマトが旬の夏の風景など、イメージを広げることはできません。人は、それぞれの経験によって、感じ方や表現も違うものなのです。
このような五感を使ったエクササイズを行うと、子どもたちは、自分の感覚とむき合い、また人との違いを認め合うようになります。さらにはクラス全体の雰囲気が、他の場面でも他者を認め合えるようになるそうです。