吹く風に春の気配を感じたら、思わず笑顔になるような温かな作品が読みたくなりますね。そんな季節にピッタリの絵本が刊行されました。
『REALLY SPRING』と題された原作は、名作『どろんこハリー』シリーズの著者コンビの手になるもので、初出以来50年以上も未翻訳でした。たくさんの人が、まるで春を待つように、邦訳を心待ちにしていた作品にやっと出会えます。
春の訪れが元気を運ぶ 『はるがきた』
暦の上では春なのに、春はなかなかやって来ません。しびれを切らした少年が、「みんなの手で、街に春をよぼう!」と提案します。大人も、子どもも、市長さんも、一般人も、みんなが力を合わせて、街中を春色に染めあげていくのです。通りには美しい花や鳥が描かれ、パレードまで行われて、街はすっかり春の気分になりました。
春をよぼうと立ち上がる子どもたちの行動力は、まさしく「春が持っているエネルギー」そのものですね。絵を担当したグレアム女史は、この作品で黄色と青と緑の3色だけを使い、心躍るような春の街を描いていますが、子どもたちの描き方もまた例外ではありません。3色の濃淡と微妙な色合いの変化で、子どもたちの溢れるようなエネルギーを見事に表現しています。
ところが、お話はこれだけでは終わりません。街を激しい雨が襲い、春色の街は、一夜にして冬に逆戻りしてしまいます。さあ、クライマックスはここからです。がっかりする人々とその街に、この後、素晴らしい変化が起こります。それは、まさに奇跡と呼ぶにふさわしい出来事でした。
結末については、小さい読者には嬉しいハッピーエンドであるとお伝えしておきましょう。とびきり素敵な結末には「思い通りにいかないことがあっても、元気をだして!きっとよいことが待っているよ」そんな作者からのメッセージもこめられているように思います。優しさの中にも、力強さを感じさせる作品は、引越しや入園・卒園などで環境が変わり、ちょっぴり不安を感じているお子さんにも、きっと元気を運んでくれるでしょう。半世紀待った甲斐があったと嬉しくなるような作品です。
【書籍DATA】
ジーン・ジオン:文 マーガレット・ブロイ・グレアム:絵 こみやゆう:訳
参考価格:1365円
発売日:2011/02/17
出版社:主婦の友社
推奨年齢:4歳くらいから