糖尿病/2型糖尿病

2型糖尿病の原因……遺伝因子・環境因子

2型糖尿病はマスコミによって「悪しき生活習慣による"自業自得"の病」というイメージが定着しつつあります。もちろん、そんなことはありません。古代エジプトのパピルスにも記述があるとおり、由緒正しい病気です。ただ、なぜか、なりやすい人となりにくい人がいるのです。

執筆者:河合 勝幸

2型糖尿病はマスコミによって「悪しき生活習慣による"自業自得"の病」というイメージが定着しつつあります。もちろん、そんなことはありません。古代エジプトのパピルスにも記述があるとおり、由緒正しい病気です。ただ、なぜか、なりやすい人となりにくい人がいるのです。

もともと遺伝性の強いものですが、関連する遺伝子はまだ一部しか見つかっていません。そして、自分ではどうすることも出来ない環境要因だってたくさんあるのです。

2型糖尿病の遺伝因子

研究者はまだ、これがあると2型糖尿病になるという単一の遺伝子を発見していません。その代り、昨秋(2010年)の段階で関与の可能性が高い2型糖尿病感受性遺伝子は、合計36か所見つかっていると発表されています。1型糖尿病の遺伝子は前述のとおり約50も発見されていて、研究者たちは主だったものはほぼ見つかっていると考えていますが、2型糖尿病の遺伝子は現在のところ、これでも「全体の6%程度しか解明されていないのではないか」という研究が昨年発表されたばかりです。

これは驚きですね。これはどう考えるべきでしょうか。既に発見されている2型糖尿病遺伝子は現在信じられているより、本当はもっと発症リスクが高いのでは?とも考えられますし、あるいは単純にまだ94%は未発見だとも言えます。

より大規模なゲノム解析が行われて、更に多くの2型糖尿病遺伝子が発見されるのは間違いありませんが、それらはマイナーなもので、単一では発症リスクをそれ程高めるものではないだろうとも推測されています。

また、遺伝子のSNPs(一塩基多型)だけではなく、解析対象は今まであまり研究されてこなかった挿入突然変異や欠失変異体、遺伝子重複にも及ぶであろうと、米マサチューセッツ総合病院ヒト遺伝子研究センター糖尿病ユニットのDr.Jose Florezが予測しています。

遺伝子は一部しか解明されていませんが、私たちは2型糖尿病は遺伝性が強いことを知っています。現在の米国では一卵性双生児の2型糖尿病発症率は80~90%以上とされていますから、片方が発症すればもう片方も(ほぼ)発症することになります。ただし、この数字だけでは2型糖尿病はまるで遺伝病みたいになってしまいますが、必ずしもそうではありません。太っている人は圧倒的に2型糖尿病になりやすいですし、妊娠中の母体の栄養不良が生まれてくる子どもの2型糖尿病の引き金になることも指摘されていますから、一卵性双生児の2型糖尿病発症率は遺伝因子のみならず環境因子も含んでいるからです。

現在の年齢構成では日本も米国も総人口の8%ぐらいに2型糖尿病が見られ、高齢者になる程罹病率が高くなります。米国のデータでは、両親が2型糖尿病だと子どもが2型になるリスクは12%、母親あるいは父親が2型糖尿病だと子どもが2型になるリスクは4~7%です。この場合は母親が2型のほうがリスクが高くなります。兄弟姉妹に2型がいれば、他の子どものリスクは13%、二卵性双生児では兄弟姉妹と同じですから13%となります。ただし、これらはあくまでも平均的なもので、家族歴や年齢、体重、性別、人種などによって大きく変化します。日本人ではもう少し遺伝性が高いのではないでしょうか。

さて、2型糖尿病は生活習慣との関係が大きいのですが、同じ2型でも肥満の少ないアジア系は、肥満によるインスリン抵抗性のコーカジアン(白人)とは発症の仕組が異なることも明らかになってきました。いや、アフリカ系やヒスパニック系、ネイティブ・アメリカン系など、各民族、人種特有の2型糖尿病になりやすい独自の遺伝子も次々と発見されているのです。とても一筋縄ではいかない病気ですね。

そもそも、どんな機序で2型が発症するのかもよく分かっていないのです。そこで遺伝子研究はインスリンを分泌するベータ細胞がどうして少しずつ壊れていくのか、なぜインスリンが十分にあるのに、肝細胞や筋肉細胞に正常に作用しないのか(インスリン抵抗性)、空腹時の血糖やインスリンレベルはどのようにコントロールされているかなどの分野で重点的に調べられています。

人が飢餓にひんしたとき、自律的に血糖値を高めて体の機能を保つ働きはとても大切なものです。しかし、現代人が飢えもないのに進行性で血糖を上昇させてしまうと2型糖尿病になってしまいます。この正常と病的なブドウ糖の上昇の区別が、遺伝子レベルで見極めることが何とも難しいのです。かつて人類の生存に必要だった遺伝子が、飽食・運動不足の時代に2型糖尿病の原因になってしまうことだって大いにありうるのです。

また、肥満が2型糖尿病と密接な関係にあるのは分かっていますが、ある人はメタボから2型糖尿病になってしまうのに対し、多くの人はメタボ止りで2型糖尿病にはならないのです。その理由を調べていた米国の研究チームが、同じ肥満(BMI)でも脂肪がつく部位によって、肥満でも"フィット"している人と、2型糖尿病になってしまう人に分かれることを発見しました。その原因となる遺伝子も同定されています。肥満は環境因子の最も大きな問題ですから、この話は環境因子のところで紹介しましょう。


2型糖尿病の環境因子

2型糖尿病の環境因子

内臓脂肪は、BMIより腹囲の方が密接に関連します

2型糖尿病の引き金となる重要な環境因子は肥満です。年齢も大きな要因ですが、こればかりはどうすることも出来ませんし、近年は若年層の2型糖尿病が注目されている時代ですから、昔のように2型イコール老人病とは言い切れなくなってしまいました。

肥満と2型糖尿病の関係は完全に解明されたわけではありませんが、過剰な体脂肪がインスリン抵抗性を増悪し、インスリンが効かなくなった分をベータ細胞がフル活動して補った挙句に、人によっては疲弊して壊れ始める、という図式で説明されることが多いようです。インスリン抵抗性も遺伝的なものに基づくと考えられています。

ところが、やせ型の2型糖尿病者はいくらでもいますし、どんなに太っていても2型にならない人もいくらでもいます。インスリン抵抗性の原因を25年間研究してきたイェール大学医学部教授のGerald Shulman,MD,PhD,の発見によると、それは余分に付いた脂肪の量だけでなく、脂肪が付いた部位(場所)が問題で、不適切なところだとインスリン抵抗性が強くなって2型糖尿病に結び付くのだそうです。つまり、肝臓と筋肉に脂(あぶら)がのるのが"悪い"肥満です。

肝臓と筋肉は食後の高くなった血糖(ブドウ糖)の80%以上を受け入れるところですから、ここがフォワ・グラや霜降り肉(!?)になってインスリンが効かなくなれば高血糖になります。肝臓の脂肪生成を調節しているのがPGC-1ベータという遺伝子です。2型糖尿病は体の脂肪の配置を決める遺伝子も大きく関与しています。

運動療法がインスリン抵抗性を改善して血糖コントロールをよくするのは、運動によって筋肉の脂肪を燃やしてしまうことが理由の一つだそうです。

メタボのお陰で内臓脂肪が話題になりました。体型では洋なし型よりもアップル型の肥満の方が2型糖尿病になりやすいのは以前からよく知られていましたが、アップル型が内臓脂肪の肥大です。尻部や大腿の皮下脂肪が増える時は、脂肪細胞の数が増えるのが通常ですが、内臓脂肪の場合は脂肪細胞そのものが大きくなります。この大きくなった脂肪細胞が悪玉の生理活性物質(ホルモンのようなもの)を分泌するのです。

また、内臓脂肪は増減が活発に行われますが、内臓脂肪から放出された遊離脂肪酸は門脈から直接肝臓に入ってしまいますから肝臓の脂肪になりやすいのです。脂肪の多い肝臓は2型糖尿病や心血管病のリスクを高めます。

環境因子で注目すべきは、ベータ細胞が傷つきやすいものであることです。ですから遺伝子や脂肪量、脂肪がたまった部位とは関係なくても壊れてしまいます。高血圧薬やステロイド、他の病気に使われる薬によっても糖尿病になりますし、最近ではビタミンDの欠乏が2型のリスクになることも話題になりました。ビタミンDは実際はホルモンのようなもので、ベータ細胞の表面にはその受容体があります。

NIH(米国立保健研究所)によると環境汚染のPCBや農業の殺虫剤も糖尿病のリスクです。ストレスだってそうかも知れません。

2型糖尿病の遺伝子研究が進むにつれ、生活習慣病は多くの遺伝子因子の複合によって引き起こされるが、その因子の90%に環境因子が関与しているのではないかと考えられるようになりました。環境因子なら予防の道が開けます。
ちょっとしたことが雪ダルマ式に大ごとになってしまいます。生活スタイルの見直しを次世代に伝えなくてはなりません。

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