痴漢の対策/痴漢・性犯罪・ストーカーを防ぐ

若妻は悪質電話に三度泣かされる(2ページ目)

ある午後かかってきた電話を受けた若妻エリカ。その内容に、衝撃と恐怖で彼女は大泣き。結婚して間もないというのに、こんな悲劇に見舞われるなんて! と大騒ぎしたものの、実は……。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

質問に答える

「まずですね、奥さんの生年月日とお名前を教えてください」
「はい。昭和58年5月19日。24歳です。名前は中村エリカ。エリカはカタカナです」
「エリカさん。身長と体重は」
「160センチ、48キロです」
「胸囲、胴囲は」
「えーと、83センチ、62センチです」

バスト、ウェストではなく胸囲、胴囲と聞かれたので(ああ、保健所だから)と漠然と思った。

「これまでに大病をなさったことは?」
「ありません」
「生理周期は?」
「え? えーと28日です」
「順調ですか?」
「はい」

「それから、これが大事なことなんですが、中村さんご夫婦の夫婦生活はどれくらいの割合ですか?」
「え? あのう、そうですね、週に2回くらい」
「避妊はされてますか?」
「ええ。子どもはもう少ししてからと二人で話して」
「今日の下着の色は何色ですか?」
「えーと、白です」

エリカは聞かれたことには素直に何でも答えていた。相手は保健所の人であり、夫のエイズ感染にともなって、妻である自分も正直に答えなくてはならないと思い込んでいたのだ。疑うことなど微塵も思わなかった。

「分かりました。それでは、奥さん、2~3日のうちに精密な健康診断を受けるための書類が届きますので、それが届いたら保健所に出向いてください。それから、この件については書類が届くまではご主人にもお話にならないでください」
「は、はい」
「では、よろしくお願いします」
「はい。どうも。あの、ありがとうございました。失礼します」

ヒドイ! ひどいわ。
ヒドイ! ひどいわ
電話を切ったエリカは呆然とした。何を聞かれて何を答えたのかもう覚えていなかった。ただ、夫がエイズだということだけが頭を殴られたように重くのしかかっていた。そして、(私も感染してしまったかもしれない!)という恐怖が、大波のように襲ってきた。と思った瞬間、エリカの目から涙があふれて、悲鳴のような言葉にならない声がほとばしった。そしてあたりをはばかることなく、エリカは大声でワンワンと泣き出した。

(ひどいわ! 正章ったら、私にエイズをうつして。どうしてくれるのよ! あ~私、いったいどうしたらいいの? 許せないわ。正章のこと、絶対に許さない! もう、私をこんな目に遭わせて。離婚しようかしら? いや、それもダメだわ。あ~~~どうしたらいいのぉ~~~)

リビングのソファのクッションを叩いたり、ねじったり、頭に乗せてみたりと、一人で大騒ぎをしながら、滝のような涙を流したエリカだった。その後、二日間は夫に何も言わずに過ごした。夫は仕事で疲れているせいか、エリカの様子に気づくこともなかった。悶々としながら時が過ぎ、郵便受けを見てもそれらしい郵便物は届いていなかった。そして、意を決して、夫に話をすることにした。だが、返ってきた言葉は意外なものだった。


→三度泣かされた若妻……P.3
→→電話で人はだまされる/あなたの一票/関連防犯ガイド記事……P.4
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