お産の処置は安全にお産できるために行うもの
出産前に行われる医療処置は、基本的に安全にお産できるように行うものです。しかし、時代によって、病産院や医師によって、処置を行うかの考え方も多少違ってきています。それは、慣例的に行われてきたこうした処置が、実は明らかな根拠があるわけではないことがわかってきたからです。出産前の医療処置には以下のようなものがあります
■浣腸(かんちょう)
通常、陣痛で入院してきた時に施行します。たまった便を出して腸を空にしておくことで、赤ちゃんが下がってくるのを妨げないように、お産の時に排便して分娩野が不潔にならないように、そして、浣腸による刺激が陣痛を促して、お産の時間を短縮させるという理由で、きまって浣腸が行われてきました。時代をさかのぼれば、明治時代にもお産前に浣腸をしていたという記録が残っています。
ところが最近の研究では、浣腸がお産の時間短縮や分娩野の清潔にかならずしも役立つわけではないという結果が出ています。妊娠中は便秘傾向となり、分娩前に便があまり出ない場合は浣腸は有効でしょう。ただし、便通が良好な妊婦に、浣腸をすることによるメリットは、あまりないと考えられています。
■剃毛(ていもう)
剃毛は、会陰切開に伴い行われるようになったと考えられています。そのメリットとしては、切開や裂傷のあとで会陰を縫いやすいこと、また陰毛についた細菌が赤ちゃんやお母さんの傷口に感染するのを防ぐと考えられてきました。以前は、ほぼ全例に会陰切開をする施設が多かったこともあり、入院時に、浣腸と剃毛はセットで実施されていました。
ただし、剃毛と感染には関連がないことがわかってきたこと、会陰切開も必要に応じて入れると、状況が変わってきていることもあり、今は、基本的には剃毛はなく、陰毛が多い場合のみ、必要に応じてカットする施設がほとんどでしょう。
■導尿(どうにょう)
膀胱に尿が貯まっていると、赤ちゃんが下がってきにくくなったり、陣痛が弱まることら、お産の直前に、細い管を尿道から膀胱に入れて尿を出す処置です。これも、かつては全例に行われていましたが、現在は必要に応じて実施するようになってきています。
■点滴
お産、またはお産直後に出血が増えたり、痙攣や血圧上昇などのトラブルが起こった時にすぐに対処できるよう、点滴をして血管を確保しておくことが目的です。特に問題がない場合は、子宮口が全開大近くなり、そろそろお産をいう頃に、点滴をとり、ブドウ糖を流しておきます。
リスクの低い、経過が順調なケースでは、点滴をしないでお産をすることもありますが、安全のために点滴をとることが一般的です。
■分娩監視装置
端子の着いたベルトをおなかに当てて、赤ちゃんの心拍のパターンと、陣痛の間隔や強さなどをチェックします。入院時に赤ちゃんが元気であることを確認したあと、子宮口が全開大になるまでの分娩第1期は必要に応じて、分娩室に移ってからの第2期は、お産までずっと継続して分娩監視装置を着けておく施設が多いでしょう。
医療処置は最低限にとどめる傾向に
上で説明した処置のうち、分娩監視装置をしないという施設はないでしょうが、かつては全例に施行されていた、浣腸と剃毛は基本的には実施しない。導尿は必要時にという施設が多くなっています。自然分娩を希望される方で、医療処置イコール管理分娩のイメージが強いお母さんは、医療処置をしないで欲しいという方もいますが、医療処置はいざという時にお母さんと赤ちゃんを守るためのものです。病院でお産をするということは、必要時には医療処置をするということが前提になります。
ほとんどの施設では、お母さんと家族の希望にはできるだけ応えるようにしているので、疑問があれば、あらかじめスタッフに相談して、お産を迎えるようにしてください。