帝王切開の体験を受け入れられないことがあります

帝王切開は母と子を守る手術ではありますが、たとえ赤ちゃんが元気で産まれてきてくれたとしても、その体験をなかなか受け入れられないことがあります。特に、緊急帝切ではその傾向が強くなります。

今や約20%、5人に1人が帝王切開で出産する時代ですが、本やネットから得られる情報は、自然分娩(経腟分娩)が前提となっていて、帝王切開の情報はおまけ程度でしかありません。母親学級や両親学級もそうでしょう。時間的な制約があること、そして、担当しているのが主に助産師ということも関係しています。助産師は、基本的には自然分娩の専門家だからです。

妊娠中、「自分が産めるのか?」、「どれだけ痛いのだろう?」といった不安にはなるでしょうが、それも主として経腟分娩をイメージしたうえの不安で、帝王切開の意識はあっても、自分がなるというリアリティーはあまりないのではないでしょうか。

将来は希望帝王切開も増えてくる?

その一方で、怖いお産を避けるためのオプションとして、帝王切開を安易に考えてしまう向きもあるようです。お隣の韓国や中国では、お産が怖い、腟が延びてしまう、縁起のいい吉日に産みたいなどの理由で帝王切開を希望する妊産婦が増えています。病院側も希望をしていてお産で何かあれば問題になる可能性がある、収入面でもメリットがあるなどの理由で、概ね希望を受け入れており、帝王切開率が日本の倍の40~50%にまでなっています。

日本ではまだ希望帝王切開も一般的でなく、病院側も基本的には受け入れてはいませんが、今後の課題となってくるでしょう。

受け入れるには悲嘆のプロセスをたどる

自然分娩を望んでいたのに、帝王切開でお産になった場合、程度の差はありますが、「普通の女性ができること(経膣分娩)ができなかった。」といった喪失感を覚えます。

体験者はどのようにこの喪失を受容してゆくのでしょう。個人差はありますが、予期せぬことが起こった時と同じ、悲嘆のプロセスをたどると言われています。子どもや、大切な人を亡くしたときの心理と同じものです。その段階として
  1. 驚き・ショックの段階
  2. 悲しみまたは怒りの段階
  3. あきらめ・解放と段階
  4. 受容
と概ね、このような段階を踏むと言われており、受容はある意味、あきらめでもあります。そして、あきらめるためには、その前の葛藤も必要なのです。

緊急帝切では気持の準備や整理の時間がない

妊娠中から骨盤位(逆子)であったり、前置胎盤であったりすれば、帝王切開を意識せざるを得なくなり、否が応でも帝王切開について調べたり、病院のスタッフに質問をしたりして情報をとりながらも、予期的な悲嘆作業を行い、折り合いをつけてゆこうとするでしょう。ところが、陣痛で入院するまで、漠然と経腟分娩で産むものと信じていたのに、急遽、帝王切開となった場合はどうでしょう。気持の準備や、整理の時間もなく、予期せぬ体験はトラウマになり、PTSD(外傷後ストレス障害)にもなりえるのです。

気分が落ちてくるのは退院後が多い

手術後1週間にはマタニティーブルーズもあるでしょうが、入院中はショックで、感情麻痺の状況に陥っていたり、逆に気がはっていたりで、あまり自分の本当の気持ちを自覚できないかもしれません。気分が落ちてくるとすれば退院後が多いでしょう。「産後うつ」へと移行する場合もあります。陣痛で入院して何日か後に分娩停止で、緊急帝切になった方が、退院して「どうして予めわからなかったの?」と言われ、混乱してしまい担当医師のことを不信に思うようになったという方がいます。

偏見の言葉で傷つけれらる

周囲からの偏見の言葉で、多くの帝王切開経験者が辛い思いをしています。
例えば、「楽をして産んだ」「頑張れなかったんだね」「普通分娩の苦しさはそんなものじゃない」「帝王切開だと母親の自覚はなかなか芽生えない」「帝王切開で生まれた子は産道を通っていないから我慢強くないらしいよ」など、枚挙にいとまがありません。

帝王切開を受けたものは、それでも、赤ちゃんが元気でいる場合が多いので、そんな周囲の対応に傷つきながら、なかなか、自分の気持ちや思いを出せる時間や場がありません。そんな自分の思いを話すのもはばかられ、ほどんどの人がそんな気持ちを抑えて、蓋をしたり、考えないようにしたりするようです。

>> 気を紛らわしたり、我慢をしたりして受容することが多い