家を売却するとき、それが相場よりかなりの安値でもないかぎり、購入の申し込みが殺到することはありません。通常は1組、多くても2~3組からの申し込みを受けて売買契約の締結に向けた交渉が始まります。
買主が見つかってからも、あれこれ悩む場面は多い
「本当にこの相手に売っても良いのか」「この条件を受け入れても良いのか」「もう少し待てばもっと条件の良い買主が現れるのではないか」などといった悩みです。
どこかで決断しなければならないことは分かっていても、なかなか即決できないケースのほうが多く、相手との駆け引きが必要になることも少なくありません。
そこで今回は、購入の申し込みを受けてから売買契約の条件交渉を進める段階でのポイントや注意点についてみていくことにしましょう。
売却チャンスのピークは初めにやってくる
まずは契約交渉のタイミングについて、少し触れておくことにします。- 初めに家を売り出してから、ほんの数日のうちに1組目のお客様が見に来て、すぐに購入の申し込みがあった
- 契約の条件として、ある程度の指し値(さしね=値引き交渉)があった
- タイミングが早過ぎることと、この調子ならこれから先にもっと条件の良い買主が現れるはずだろうという期待もあって、そのお客様からの申し出は断った
- ところがその後は具体的な交渉に入るお客様がまったく現れない
あなたから売却の依頼を受けた物件の情報は、レインズという不動産業者間の情報交換システムに登録され、そのエリアで営業をする数多くの不動産業者が自社の購入見込み客へ紹介をしようと動き出します。
そして、登録された直後はその情報が最も新鮮であり、それぞれの業者が抱えるお客様に対して「こんな物件が出ました!」と紹介をしやすいタイミングでもあるわけです。
その後は時間の経過とともに情報の「鮮度」が失われていくことになりますから、売り出した直後が売却機会のピークだといえるでしょう。
潜在的な需要の大きな物件であれば話は別ですが、そうではない物件が初めの機会に売れなければ、その後は広告などによる不動産業者の営業努力次第だったり、タイムリーに新たな購入見込み客が現れるのを待ったりするだけ、という事態にもなりかねないのです。
購入の申し込みを受けるのが早過ぎると、「騙されて安値を付けられたのではないか」と疑念が生じたり、「もっと条件の良い買主が現れるだろう」と期待をしたりすることは当然なのかもしれません。
しかし、とても承諾できないような指し値交渉でもないかぎり、ただ単に「早過ぎるから」という理由だけで申し込みを断ることをせず、きちんと交渉に応じるようにするべきです。
指し値交渉への対応方法は?
契約交渉のなかで最も多いのは価格に関するものです。売出価格よりも「高く売ってくれ」という買主はいませんから、価格交渉=値引き交渉、と考えて差し支えありません。購入申込者から「いくらだったら買います」と金額を提示してくるのが「指し値(さしね)」です。家の売却を不動産業者へ依頼したときに、「いくらで売りに出すか」だけではなく「いくらまでだったら売るのか」という最低限のラインも不動産業者との間で確認したことでしょう。
指し値がこのラインを上回る金額であれば問題はないのですが、最低限のラインを下回る指し値を受けたときには注意が必要です。
もし仮にそれが受け入れ可能な金額だったとしても、口頭での打診に対しては回答するべきではありません。購入を申し込んだ人が本当に真剣に考えているのかどうか、その度合いが推し量れないからです。
口頭での打診に対して安易に応諾の回答をすれば、次からはその金額を基準に考えられてしまう(さらにそれが購入申込者を連れてきた業者にも知られてしまう)ことになりかねません。
少なくとも「買付証明書」または「購入申込書」を受け取ってから、指し値への回答をするようにしましょう。「買付証明書」などに法的な拘束力はありませんが、この書面によって相手が冷やかしではないと判断することができます。
もっとも、「買付証明書」を勝手に代筆で作りあげてしまう不動産業者もいるので、確定的な判断はできませんが……。
その一方で、現実的に受け入れることのできない金額の指し値を受けたときには、即座に断っても構いません。
あなたと購入申込者との間には、不動産業者が1社または2社、クッションとして存在しているわけですから、「すぐに断ったら申し込んだ人が気分を害するかも」などと気に掛ける必要もないでしょう。
ただし、「指し値を受け入れることは不可能」と判断する前に、それ以外の提示条件も十分に考慮のうえで、自身の資金計画(買換えの予定や従来の住宅ローンの返済など)をもう一度よく見直してみることも大切です。
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