宅地建物取引業法詳説〔売買編〕の第24回は、第41条(手付金等の保全)に規定された「未完成物件」の売買契約時における保全措置についてみていくことにしましょう。
(手付金等の保全) 第41条 宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建築に関する工事の完了前において行う当該工事に係る宅地又は建物の売買で自ら売主となるものに関しては、次の各号のいずれかに掲げる措置を講じた後でなければ、買主から手付金等(代金の全部又は一部として授受される金銭及び手付金その他の名義をもつて授受される金銭で代金に充当されるものであつて、契約の締結の日以後当該宅地又は建物の引渡し前に支払われるものをいう。以下同じ。)を受領してはならない。ただし、当該宅地若しくは建物について買主への所有権移転の登記がされたとき、買主が所有権の登記をしたとき、又は当該宅地建物取引業者が受領しようとする手付金等の額(既に受領した手付金等があるときは、その額を加えた額)が代金の額の百分の五以下であり、かつ、宅地建物取引業者の取引の実情及びその取引の相手方の利益の保護を考慮して政令で定める額以下であるときは、この限りでない。
5 宅地建物取引業者は、次の各号に掲げる措置に代えて、政令で定めるところにより、第一項に規定する買主の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各号に掲げる措置に準ずるものとして国土交通省令・内閣府令で定めるものを講じることができる。この場合において、当該国土交通省令・内閣府令で定める措置を講じた者は、当該各号に掲げる措置を講じたものとみなす。
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第41条はかなり長い条文になっていますが…。
一定額を超える手付金などは守られる
不動産の取引は一般的に高額であり、買主が売買契約締結のときに支払う手付金や、引き渡し前に支払う中間金などもそれなりに大きな金額となります。そのため、契約に基づいて物件が引き渡される前に売主業者が倒産したり、契約を履行できない状態になったりすれば、買主が被る損害も大きくなりがちです。そこで、宅地建物取引業法第41条では宅地建物取引業者が売主の場合における不動産の取引に対して「手付金等の保全措置」を義務付けることで、買主の保護を図っています。売主が個人または(宅地建物取引業者ではない)一般法人の場合には、法律による保全措置の義務がありません。
なお、この「第41条」では工事完了前の未完成物件、いわゆる「青田売り」の売買における保全措置を定めています。契約締結時において既に完成している物件の売買における保全措置は「第41条の2」に規定されており、こちらについては改めて解説をする予定です。
また、この場合の未完成物件とは、新築建物であればその建築工事が完了していない状態、宅地造成工事を伴う土地分譲であればその造成工事が完了していない状態を指します。建物の外観が完成していても、内装工事が終わって人が住める状態になっていないのであれば、それはあくまでも「未完成物件」として扱われます。さらに、大規模なリフォーム工事を伴う中古住宅の販売などで、その工事完了前に売買契約を締結するときも「未完成物件」と同様に扱われます。
ちなみに、この保全措置の規定は宅地建物取引業者間の売買取引には適用されません。
保全措置の対象とその金額は?
保全措置が義務付けられるのは、「手付金等」の額が売買代金(消費税を含む売買総額)の5%を超える場合、もしくは(政令で定められた)1,000万円を超える場合です。逆にいえば、売買代金の5%以下かつ1,000万円以下の「手付金等」には保全措置がありません。その代わりに宅地建物取引業者の営業保証金により、原則として1,000万円までの損害に対しては保護がされています。しかし、いざというときに確実な保証を求めるのであれば低額の手付金等にとどめるのではなく、あえて売買代金の5%を超える手付金を支払うようにするべきです。
この「手付金等」とは、売買契約締結のときに支払う手付金だけでなく、中間金、内金など名目に関わらず「物件の引き渡し前に買主が支払う金銭で、売買代金に充当されるもの」をすべて含みます。
売買契約締結のときの手付金が売買代金の5%ちょうどで保全措置が講じられなかったとしても、中間金などの支払いによって合計が5%(または1,000万円)を超えることになれば、手付金と中間金などを合わせた全額に対して保全措置を講じなければなりません。また、新築分譲マンションなどでは売買契約の前に10万円程度の「購入申込金」「申込証拠金」などを支払うケースも多くなっていますが、これらの金銭も手付金などに充当されれば、その時点で保全措置の対象に加えられます。
さらに、売買契約締結のときは未完成物件で手付金を支払い、工事が完了してから中間金を支払うというケースも考えられます。このようなときは売買契約締結時の状態(未完成物件)を基準に考えることになっていますから、この場合でも5%(または1,000万円)を超える時点で保全措置が必要です。
なお、引き渡し前であっても買主に対して所有権移転登記がされたとき、または新築建物の所有権保存登記を買主がしたときには、手付金等の金額に関わらず、保全措置を講じなくてもよいことになっています。登記によって「買主の権利が保護された」とみなされるためです。
保全措置は2種類
未完成物件における「手付金等の保全措置」は、銀行などによる保証と保険事業者による保証保険のいずれかが必要で、これ以外の第三者が保証などをしても無効です。銀行などによる保証の場合には、宅地建物取引業者と銀行などとの間における「保証委託契約」に基づいて「保証証書」が発行されます。「保証証書」は、買主に対して手付金等を返還しなければならない事情が生じたときに、宅地建物取引業者と銀行とが“連帯して”その全額を保証することを約束する内容になっています。銀行などによる連帯保証ですから、万一のときには直接その銀行などに対して手付金の返還を請求することができます。
なお、この保証ができるのは銀行のほか政令によって、信用金庫、株式会社日本政策投資銀行、農林中央金庫、出資の総額が5,000万円以上の信用協同組合、株式会社商工組合中央金庫、労働金庫に限られます。
また、保険事業者による保証保険の場合には、宅地建物取引業者と保険事業者との間における「保証保険契約」に基づいて「保険証券」(またはこれに代わる書面)が発行されます。買主に対して手付金等を返還しなければならないのにも関わらず宅地建物取引業者がこれを返せない事態となったときには、保険事業者から手付金等相当額の保険金が支払われます。
手付金等の支払いは書面と引き換えに
保全措置の対象となる手付金や中間金などを支払うときには、銀行などが発行した「保証証書」または保険事業者が発行した「保険証券」などと引き換えになります。ただし、あらかじめ買主が承諾をすれば、「保証証書」または「保険証券」の発行に代えて、電子的手段による書面の交付が認められています。
これらの書面が交付されない場合には、買主は手付金等の支払いを拒むことができ、それによって買主が契約違反を問われることはありません。ただし、そのような事態になれば別の意味で問題ですね。
なお、保全措置を講じないままで規定額を超える手付金等を受け取った宅地建物取引業者は、1年以内の業務停止処分、または情状が特に重いときは免許の取り消し処分という厳しい責任を問われることになっています。この取引に関与した代理業者または媒介業者も同様に監督処分を受ける場合があります。
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