雑貨/ハンドクラフト・工芸

鳥取の手仕事を巡る旅4 様々な伝統工芸品(2ページ目)

鳥取巡り第4弾は、和紙、織物、木工、和傘など、様々な作り手の工房を訪ねました。静かにコツコツと丁寧に作られた作品には心打たれるものがあります。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド

弓浜絣

様々な絣模様。藍の色も微妙に違います。
鳥取県の西部、米子市から境港市にかけての 日本海に突出した長さ約20キロメートルの白砂青松の弓壮の陸橋、 この辺りは「弓が浜」と呼ばれ、綿の生産が盛んな地域でした。 栽培が始まったのは今から300年ほど前の江戸時代のこと。 やがて藍玉問屋が設けられたことから、藍色に染めた絣織物が誕生します。 その後明治中期くらいまで、農家の副業として盛んに行われるようになりました。 織物技術の良し悪しは直接収入に響き、経済を左右したため、 良い織物が織れる娘は良縁の条件になったりしたそうです。

元々農民が普段の生活に使う衣料として織られていたため、 素朴で愛情のこもった模様が織られていることが多いようです。 鶴亀や松竹梅、龍など縁起のよいものが織り込まれていたり、 厄除けの意味を持つ図案などもありました。 この地方で栽培される綿は地元では浜綿と呼ばれ、繊維に腰があって弾力性に富み、色白でつやのあるのが特徴です。繊維の長さが短いため機械紡績には不向きですが、もともとがとても上質な綿なので、手で糸に紡ぐことで保温性と弾力性に富んだ上質な布になります。もちろん布団綿にも適しています。



ゆみはま絣
工房の庭で綿や藍を育てています。手紡ぎで
糸を拠り、昔ながらの製法で手作りしています。


こちらの工房は、全ての工程を昔ながらの伝統的な技法で再現しています。 弓浜絣の技法は、 緯糸(よこいと)に先染めのかすり糸を使う平織りで、柄は手作業で織り込んでいきます。 絣模様は、模様の部分を後で白く抜くのでも、白い別糸を使うのでもありません。 一本の糸の状態のときに、前もって白く抜く部分に印を付けて、 藍を染め分けておくのです。

作り方をもう少し詳しく説明すると、 まずは紙などに図案を描き、図案を元に種糸というのを作ります。 種糸は、一本の糸を図案を埋めるように左右に渡して、 模様の部分に黒い墨などで印を付けます。 糸を解くと、白い糸に点々と黒い点が付いた状態になります。 その種糸を目安にかすり糸を合わせ、 黒い点が付いた部分だけを染まらないようにひとつひとつ 細かい覆いを被せて括って、藍に染めるのです。染めてから覆いを外すと、 その部分だけが点々と白く残ります。 そして織るときに、染め抜かれた白い部分を上手に合わせて模様を作り出すのです。 聞いただけで気の遠くなるような作業。といっても織る作業はもうフィナーレに近く、ここでもやっぱり糸を作るまでの下準備が一番大変です。 しかし手紡ぎ、手織りならではの素朴でざっくりとした風合い、 先染めだからこその微妙な白い色の揺らぎに味わいがあります。


工房ゆみはま
鳥取県境港市竹内町899
tel 0859-45-7610
10:00~17:00 日・祝休(訪問時は要連絡)




淀江傘

骨組みの規則的な直線が優美です。
淀江傘の歴史は、1821年に倉吉屋周蔵という人が淀江町にやってきて、 傘屋を開いたことが始まりといわれています。 傘の骨となる竹材が入手しやすく、 また砂丘に代表される広大な砂浜に数千本の傘を一気に干すことができたのが、 発展の要因でもあったようです。 砂浜に果てしなくどこまでもずらりと傘の並ぶ姿は圧巻だったことでしょう。 また、鳥取には毎年8月に「しゃんしゃん祭」という伝統的なお祭りがあって、 その一番の盛り上がりである「傘踊り」に和傘の技術が使われています。


傘 工房
全ての工程を一貫して手作り。そういうところは今はもう少ないそうです。


こちらではお祭り用の傘の他、実用として番傘や蛇の目傘を 昔ながらの技法で製作しています。 竹骨を組んだら丁寧に和紙を貼り、 亜麻仁油と桐油をブレンドした油を2度引きして丈夫に仕上げています。 和傘を普段使いするのは、なかなか勇気のいることですが、 持っているだけで艶やかな身のこなしができそうで、 ほのかに憧れるものがあります。 外国人にはインテリアなどとしても人気があるそうです。


淀江傘伝承の会
鳥取県米子市淀江町淀江796(和傘伝承館内)
tel 0859-56-6176
9:00~17:00 月、日、祝休




鍛冶製品

できたばかりの包丁がきれいに並んでいました。
鳥取県では良質な砂鉄が採れることから、古くから 鍛冶製品を製作していました。 今回訪れた工房は、鳥取県でもかなり内陸の、岡山や兵庫との県境近く。 のどかな田園風景が続く、単線の無人駅(駅だと気づかないくらい 地味でこじんまりとした駅でした。)からすぐのところでした。

大塚義文さんは代々鍛冶屋の家系です。青紙という特級クラスの鋼材を使い、手打ち鍛造で作っています。 使い手と直接会える場合は、本人と握手して手の感触を掴み、握力や 手の大きさなどを考慮して包丁を作るそうです。 また、関東、関西など地域によって使い勝手の好みがあるため、 硬さや角度を微妙に変えているんだとか。 切ったものの刃離れがいいよう、刃先から根元にかけて少しずつ斜めに厚みを 増していたり、鋼の部分の揺らいだ模様は日本海の波を表現していたり、 細部にまで細かな気配りがあります。 見た目の美しさはもちろん、持ったときの感触や切れ味、 切ったときのサクッという音など、五感で包丁を味わってもらえるよう、 心を尽くしているそうです。

刃物 工房
最高級の鋼を鉄で挟み、叩いて伸ばします。


大塚刃物鍛冶
鳥取県八頭郡智頭町三吉28-4
tel 0858-75-1822
13:00~20:00 不定休(訪問時は要連絡)


鳥取民芸木工

和と洋が融合した、トラディショナルでハイカラな風情
最後にご紹介するのは鳥取民芸木工の福田豊さん。 鳥取地方は山深い地域であったために交通の便が悪く、昔から 生活必需品は自給自足で作るという風習だったようです。 そのために多くの工人が城下町に住み、また良質な木材も豊富であったことから、 木工工芸品の技術も進歩していきました。 大正末期には民藝運動が興り、 鳥取の熱心な活動家であった吉田璋也氏は、木工品の デザインも数多く手掛けていたそうです。 豊さんの父親である福田祥さんも吉田氏の指導を受け、 改良を加えながら、鳥取民芸木工が完成していきました。



鳥取民芸木工
椅子は畳部屋に使えるよう足に工夫があります。ロウソク立ては高さ調節も可能。


全てコツコツとひとつずつ手作りされたもの。慎重な材料の選択から、 卓越した指物技術による精巧な作り、仕上げには拭漆の技法を用い、 良質の本漆を何度も拭き重ねて丁寧に誠実に作られています。 ヨーロッパ、中国、朝鮮などの家具を参考にした独特のデザインは、 実用と芸術の両方を兼ね備え、民芸の精神に基づいています。 100年でも使えるような堅牢な作り。 見えない細部にまで手の込んだ技が隠れているのです。


鳥取民芸木工
鳥取県倉吉市黒見407-1
tel 0858-28-3037
9:00~19:00 不定休(訪問時は要連絡)




最後のページは、鳥取プチ観光情報! その他のお薦めどころを紹介しています。
ゆみはま絣
傘
大塚刃物
鳥取民芸木工
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