鳥取特集の第4弾は、県内でコツコツとものづくりをされている人々を訪ねました。 鳥取県は全国でも一番人口の少ない県で、山も海もあり、優美でダイナミックな 風景に圧倒される鳥取砂丘を筆頭に、 広大なブナの森が広がり聖地として崇められた大山や、 日本海屈指の景勝地とされる浦富海岸など、 豊かで美しい自然の 溢れる地域です。 作り手たちは県内のあちこちに散らばって、静かにコツコツと制作 している人が多いようで、そのために 例えば「陶芸村」や「ガラスの里」のような、 土産物屋が軒を連ねる大きな観光地は少ないのですが、 その分、誠実で確かなものづくりが長く続いて行われているように思います。 民芸運動による影響も色濃く残っており、「普段の暮らしを豊かにする、 美しいもの作り」に力を注ぐ作り手が今も多く存在するのです。


因州和紙

和紙工房
清らかな美しさがある、手漉きの和紙。
因州和紙の起源は古く、1000年以上昔にさかのぼるともいわれています。 平安時代の延喜式(えんぎしき 律令の施行細則をまとめた古代法典。) には、朝廷に因州の和紙が献上 されたことが記録されているそうです。

今回訪れたのは、和紙作りの盛んな地域である、青谷町の手漉き和紙の工房でした。 和紙といえば、職人さんが水から「すげた」という木枠のような紙漉きの道具を 前後に動かして作る様子が浮かびますが、これはもう紙作りでは最後の段階。 一番大変なのは、紙の原料となる植物(コウゾ、ミツマタ、ガンピなど)を 刈り取って長時間蒸し、皮を剥ぎ取ったり、繊維を白く柔らかくして 余計な傷や汚れをひとつてひとつ手作業で取り除いたり、 という、植物から繊維を取り出して整えるまでの準備作業。 この作業が和紙作りの90%だともいわれます。昔は家族ぐるみの手仕事で、 材料の採取や漉いた紙の圧縮など力仕事はお父さん、紙漉きはお母さん、 材料のゴミやキズを取り除く掃除作業はおじいちゃんおばあちゃんなど、 みんなで分業して、冬の農閑期に行われていました。 コウゾや糊の原料であるトロロアオイは秋の終わりごろから採取でき、 寒い時期の方がいい紙が作れることは、自然の摂理に適った仕事でもあったのです。 時間も手間も相当かかるものですが、 和紙の上品で繊細な表情、ふっくらとした温かみのある風合いには、 やはり他には代えられない魅力を感じます。

和紙工房
ふわりと重ねられた和紙の、自然の色と手触りにハッとします。


その後に訪れたたくみ工藝店には、和紙を使ったポストカードや 便箋、包装紙など、様々な種類のものが販売されていました。 特に心惹かれたのが、下の写真にある和紙の便箋です。 こちらは手漉きではありませんが、透けるような薄く柔らかな質感の和紙で、 便箋というより、何か大切なものを包みたいような気分になるものでした。 上部に余白を持たせた罫線のシンプルなレイアウトや、 (写真ではあまり分からないですが)少し擦れた感じのラインなどにも味があります。

大因州和紙
大因州製紙協業組合の商品。たくみ工藝店でも扱っています。


大因州製紙協業組合は、 日本元来の天然素材であるコウゾを使った和紙として日本一の生産量を誇る会社。 創業者は15歳から紙漉きを始め、20代の頃に柳宗悦氏に出会い、 畑で採れたトウモロコシを差し上げたところ、それを包んでいた和紙を大変美しい と褒められた、というエピソードを持っています。鳥取のものづくりに関わる人々は、 どこへ行っても柳さんの話が普通にポロリと出てくるので驚きます。 最近は、伝統的な和紙本来の良さを引き継ぎつつ、現代の暮らしに合った インテリアや生活雑貨の研究を続けているのだそうです。 変に都会に媚びず、無理やり流行り風にすることもなく、 しっかりと芯がありながら、自分たちがいいと思うものをコツコツと模索する姿勢に好感を持ちました。


■因州和紙について知るなら・・・

あおや和紙工房
鳥取県鳥取市青谷町山根313
tel 0857-86-6060
http://www.aoya.city.tottori.tottori.jp/washikoubou/top.htm


大因州製紙協業組合(山根和紙資料館 があります。要予約)
鳥取県鳥取市青谷町大字山根128-5
tel 0857-86-0011 
http://www.daiinshu.co.jp




郷土玩具

柳屋
ほっこり人を和ませる表情がかわいらしいです。
鳥取には様々な郷土玩具があり、災厄を人形に託して川に流す行事に 使われる「流し雛」、倉吉の娘たちをモデルに作られたという「はこた人形」などが 有名です。 その他にも木彫りの干支人形や土鈴、張子など、 どれもどこかユーモラスで愛嬌があり、 ちょこんと部屋に飾っておきたくなるような玩具ばかりです。

今回訪れたのは、そんな郷土玩具を手作りしている「柳屋」の田中謹二さん、宮子さん ご夫婦の工房でした。 主に謹二さんが土台作り、宮子さんが絵付けを行って、夫婦共同作業で作っています。 実は以前取材した東京・目黒の複合施設「CLASKA」 のギャラリーショップで、こちらで制作された張子のお面が展示されており、 ずっと心に残っていたのでした。

柳屋 工房
夫婦で分担して、大切に丁寧に作られています。
収める箱には和紙が張られ、手書きのラベルにも味があります。


人形は昔話にちなんだものが多く、ひとつひとつにほのぼのとした エピソードがあります。 田中さんご夫婦は、地元の昔話やお祭り行事にも相当詳しく、 キツネが人間を化かした民話などを面白可笑しく話してくれました。 あの辺にはまだキツネがいるかもねえ、なんていいながら。 写真にはありませんが、提灯を持っていたり、女性に化けていたり、 ちょっととぼけ顔のキツネの人形 もいろいろな種類がありました。

柳屋 お面
ニコニコ笑顔のお面は縁起が良さそう。どこかモダンな印象もあります。
裏面には昔の本のページが使われているのだそうです。


上の写真のニコニコお面は、鳥取ではポピュラーなお祭りに使われるもの。 鳥取では、きりん獅子という獅子舞があちこちの神社で行われるのですが、 このお面を被った人は「ぬけ」と言われ(ぬけさくの略らしい)、 獅子舞の露払い役を務めていました。今は、実際のお祭りで使われることはない とのこと。このぬけ以外にも、道化役目の「猩々(しょうじょう)」という赤いお 面(幽玄な踊りをするそうですが、こちらは「酔っ払い」という設定なんだそ う)、「はなたれ」という緑のお面(こちらもちょっとマヌケ顔で、江戸時代の 頃、お祭りの日には一人だけこれを被って誰かの悪口が言える、という特典付 き)もあります。


柳屋 
鳥取県鳥取市茶町403
tel 0857-22-2695
9:00~17:00 不定休(訪問時はご連絡を)


次ページでは、さらに魅力的な伝統工芸品をいくつかご紹介します。