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「礼金」の性質と最新事情(2)(4ページ目)

礼金とは一体何か?歴史的な背景と、現状、そして将来的な予測をまとめた記事に引き続き、判例とともに礼金事情に迫ってみました。

加藤 哲哉

執筆者:加藤 哲哉

賃貸・部屋探しガイド

裁判の争点、そして判断は?


それぞれの主張は様々ですが、争点となった主なことは消費者契約法10条の解釈だったよう。ほかにも何点か「礼金」の考え方がありましたので、それを整理してみます。

まず、消費者契約法10条前段に該当するという控訴人の主張には理由があるとされました。それは、この礼金は少なくとも賃料の前払いとしての性質を有するということが、毎月末を賃料の支払時期と決めている民法と比べて消費者の権利を制限し、消費者の義務を加重しているということです。

しかし、消費者契約法10条後段において、控訴人は信義則に反していると主張していますが、そもそも賃料とは賃貸人が賃借人に賃貸物件を使わせる対価として受領する金銭であり、民法で毎月末に賃料を支払時期と決めているのは任意規定なので、賃貸借契約成立時に賃料の一部を前払いさせることも可能。つまり、賃貸人は月々の賃料だけでなく契約締結時に受領する礼金や権利金なども賃貸物件を使用させる対価として回収して賃貸業を営むのが通常なのです。

また、賃借人にとっては多数ある賃貸物件の中から、立地や間取りだけでなく借りた場合に必要となる費用、たとえば、礼金や権利金、更新料などが設定されている場合にはそれらを総合的に含めて経済的な負担を考えて選択するのが通常。

つまり、賃貸人にとっての礼金とは、賃貸物件を使用させることによる対価として、賃借人にとっての礼金とは賃貸物件を使用するに当たり必要となる経済的負担としてそれぞれ把握している金銭なので、礼金は賃料の一部前払いとしての性質を持っていると言えるのです。

また、敷金とは異なり、礼金が賃貸借契約終了時に返還されない性質があることは、一般的に周知の事実なので、礼金の法的性質や趣旨について全く説明を受けていなかったという控訴人の主張は認められませんでした。

さらに、控訴人からはUR賃貸や特定優良賃貸住宅などの物件は礼金が禁止されていることを挙げて、礼金が信義則に反していると主張していましたが、借地借家法を制定したときにも礼金を禁止する旨の規定はなかったし、「賃貸借標準契約書」を作成した国交省でも、現行の礼金制度を容認するような答弁をしていることに鑑みれば、この礼金禁止例を挙げて今回の礼金約定のことを非難することができないと判断されています。

礼金の額が不当に高いことについては、礼金を安く抑えておき、その分賃料を高く設定されている可能性もあるため、単に礼金がほかの地域と比較して突出して高いとは言い切れないとのこと。さらに、賃借人は約7ヵ月余りで退去したこと(それなのに礼金も含めるとこの7カ月間で約9.95カ月分の家賃を払わされたことになること)も控訴人からは主張されていましたが、もともと礼金は賃貸借契約終了後には返還されない性質のものと承知していて自ら中途解約したのだし、賃貸人は中途解約であっても礼金は返還しないことを前提に月々の賃料を設定しているのだから、この主張が認められないとの判断でした。



今回の礼金返還を求めた裁判では、その訴えは棄却、つまり借り主が礼金を払うことは認められています。礼金は法的に考えても、賃料の一部前払いという性質を持っていますから、簡単になくすことはできなさそうです。ただ、前回記事のように礼金なし物件のニーズは高まっていますし、世の中の流れとしては礼金なしで契約できる物件が増えていくでしょう。

現在、契約する(あるいは契約した)物件の礼金をなくすことは難しいですから、これから賃貸借契約を結ぶ予定の方は、礼金も賃料の一部と考え、総合的な経済的負担を判断して物件選びをする必要があるでしょう。

【関連サイト】
・礼金の性質と最新事情(1)

・好評連載中!「はじめての部屋探し How To」
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