坐骨神経とは
黄色は坐骨神経、ピンク色の範囲に坐骨神経痛の症状が出ます
「坐骨」とは文字通り、椅子に座った時に座面に当たる部分のこと。クッションなしで堅い椅子に座っていると痛くなる、お尻の骨の下の部分を指します。
「坐骨神経」はお尻の深い層の筋肉前方にあり、骨盤の中を通り抜け、足の先に向かって1mほど伸びている神経。
坐骨神経痛の症状がお尻から足にまで及ぶのは、坐骨神経がお尻と太ももの裏を通り膝裏で枝分かれし、下腿外側寄り、足の甲、指の筋肉の感覚を支配している長い神経だからです。
坐骨神経痛の原因
坐骨神経は太くて長いため、どの部位でどのように障害されるかによって、坐骨神経痛の原因や診断が変わってきます。
腰の下の方にある「第1腰椎」付近からは、脊髄が馬のしっぽのような神経の束になって出ていて、これを「馬尾(ばび)」と言います。この「馬尾」という神経の束や背骨にある神経の出口付近、脊髄神経が通る一部分などが障害されることで、坐骨神経痛の症状が出るケースが多いです。
圧迫や炎症が原因となるケースでは腰椎の疾患が挙げられますが、坐骨神経痛に似たような症状を引き起こすものでも、原因が腰椎、骨盤にない場合もあり、正確に診断するためには整形外科の受診が欠かせません。代表的な坐骨神経痛の原因について、以下でご紹介します。
腰部脊柱管狭窄症(ようぶ・せきちゅうかん・きょうさくしょう)
赤い部分で脊髄神経の通り道が狭くなっていて、症状が起きる
50歳以上の中高年齢者に多く見られる坐骨神経痛の原因。背骨中央にある脊髄の通り道「脊柱管(せきちゅうかん)」が、何らかの原因で狭くなってしまうことを「狭窄(きょうさく)」といいます。
脊柱管が狭くなることで、その中にある脊髄や、脊髄から枝分かれした神経が障害されてしまい、坐骨神経痛の症状が表れることがあすのです。
腰部脊柱管狭窄症にはいくつかタイプがあり、自覚症状や検査結果、優先される治療方法にも違いが見られます。
腰椎椎間板ヘルニア
赤色で示しているのが、椎間板中央のゼリー状部分が飛び出た「ヘルニア」部分
20~30歳代に多く見られるもの。脊椎は「椎骨(ついこつ)」という小さい骨と、クッション材である椎間板が交互に積み重なってできています。
クッション材である椎間板にはゼリー状の部分があるため柔軟に体を動かすことができますが、この椎間板が外にはみ出してしまうと体の柔軟な動きが損なわれ、結果的に坐骨神経痛の症状を伴うことがあります。
高齢者の場合は、椎間板が変性することでゼリー状の部分を囲っている外側の「線維輪」に亀裂が生じ、椎間板ヘルニアが起きることもあります。神経が刺激されることで、坐骨神経痛の症状が生じ始めます。
腰椎分離すべり症
ピンク色の部分が分離し、すべり出てしまった場合に起きる症状
姿勢を支える土台の部分である腰椎と骨盤部分は、5つの腰椎と仙骨で、自然なカーブ状になり、安定性が保たれています。
しかし腰椎の関節を構成している付近(椎間関節の椎弓の一部)が分離して安定性が失われると、腰椎がすべってしまい、神経根・馬尾が障害されて坐骨神経痛の症状が生じます。
腰椎変性すべり症
骨が青の矢印方向へすべり、ピンク丸印の部位で神経が障害された場合に症状が出る
腰椎分離すべり症のように、骨折し切れた状態は見られず、椎間板や椎間関節の変性により、腰椎が前後へすべり出してしまう状態。
すべりが大きくなると、脊髄の通る脊柱管の形状も変化してしまい、神経が刺激されることになります。
梨状筋症候群(りじょうきん・しょうこうぐん)
赤色部分が梨状筋。その影響を受けやすいのが黄色部分の坐骨神経
梨状筋(りじょうきん)は、骨盤を構成する仙骨と大腿骨を結ぶ筋肉で、股関節を動かす働きをしています。梨状筋の下を坐骨神経が通る際、梨状筋が過度に緊張して神経をしめつけ、坐骨神経痛の症状が起こることに。
梨状筋による神経の圧迫は、周囲の他の筋肉にも過剰な硬さが影響している可能性も考えられ、また、約2%の割合で、梨状筋の中を坐骨神経が通る例があります。
脊椎・骨盤の腫瘍
内臓の癌が脊椎に転移したケース。脊椎の硬さが強く、体を動かすことが困難だったり、腰部を軽く叩くだけでも痛みを感じたり、くしゃみが腰や背中に響いたりします。馬尾腫瘍で脊髄の神経が圧迫されるようになると、排尿・排便障害や麻痺が見られるようになります。
坐骨神経痛の症状
坐骨神経痛の原因は様々。動きによっては下肢へ痛みやしびれが出ることがあります
坐骨神経痛を生じている原因により症状にも違いはありますが、以下のような症状が表れることがあります。
痛みやしびれが長引く、安静時に下肢痛が強まる、麻痺、失禁が見られる場合は、重大な病気が潜んでいる危険もあるので、早めに整形外科を受診して下さい。
- 腰痛がある
- お尻が痛み、しびれがある
- 太もも、足にしびれ、痛みがある
- 腰を動かしたり、姿勢によりお尻、太もも、足の痛みや痺れが強まる
- 少し歩くと下肢が痛み、休みながらでないと歩行困難
- 下肢の冷たさ、だるさ、感覚異常がある
- イスに座わっていると、お尻や下肢に痛みが出る
- 痛みで立っていることがつらい
- ズボンや靴下を履くようなかがむ動作で下肢の痛みやしびれが出る
- 足の力の入り具合に左右差がある
- 足の裏の皮膚が厚くなったように感じる
- 足の裏がジリジリする
- 足に力が入らなくなったり、つまずきやすくなる
- 前かがみやしゃがむと楽になるが、腰を反らすことができない
- 排尿・排便異常がある
- お尻から足にかけて、ひきつれる感じがする
坐骨神経痛の傾向
若い年齢では椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛が多く、中高年層では、脊椎の変性や脊柱管狭窄、腫瘍によるものがよく見られます。妊娠中の腰の痛み
また、妊娠中はホルモン分泌の影響で靭帯が弛みやすくなるとともに、腰部・骨盤を支える筋肉の働きにも変化が見られる場合も。その結果、坐骨神経の通る範囲に痛みや痺れなどの症状が出ることがあります。気になる痛みがある場合は、主治医か整形外科で診察を受けるようにしましょう。