網膜剥離とは
網膜は10層から成り立っている。一番下の層である「網膜色素上皮」と、それ以外の「神経網膜」と呼ばれる9層が分離するのが網膜剥離である
ですので、網膜剥離は網膜がその下の層である網膜色素上皮からはがれる状態だと考えてください。おそらくほとんどの先生が患者さんにそう説明されていると思います。このサイトでもこの定義を前提に説明を進めていきます。
網膜剥離の原因、メカニズム
実際に手術で網膜を触ってみるとわかるのですが、網膜はものすごく薄くて弱くてつるつるしており、自分は「まったく湯葉みたいに弱いなぁ、こいつは」と思います。それが網膜色素上皮にへばりついているわけです。本当に湯葉がへばりついている状態をイメージしてもらうのがぴったりで、手術中のちょっとした不注意でびりっと破れたり、べろっとはがれてしまう危険があるくらいです。ここでは網膜は非常に破れやすく、網膜色素上皮と網膜の接着は驚くほど弱いものだということを覚えておいてください。網膜剥離は突然起きるのではなく、前段階として網膜に穴が開いてしまうところから始まります。穴の形状により、「網膜円孔」「網膜裂孔」と呼びます。この2つの特徴についてもご説明しましょう。
網膜円孔ができるわけ
網膜にもともと弱い部分がある場合、そこがどんどん薄くなり、最終的に穴が開いてしまいます。布をイメージしてください。布が弱くなった部分は薄くなり、繊維のあみあみが見えると思います。網膜もちょうどこのような状態になります。これを網膜格子状変性(もうまくこうしじょうへんせい)と呼びます。特に近視の人は眼球が大きく網膜が引き伸ばされているため、薄い部分が出きやすく、近視の人に多い状態と言えます。網膜格子状変性が経年変化でさらに薄くなると、ついには穴が開いてしまいます。これは丸い穴であることが多く、この状態を「網膜円孔」と呼びます。網膜円孔は網膜格子状変性の一部に見られる場合がほとんどですが、もともと局所的に非常に小さい範囲で弱い部分があると、単発で見られる場合もあります。
網膜裂孔ができるわけ
眼球の中は、硝子体という透明のゼリー状物質で満たされています。硝子体は袋に包まれた状態で、袋の後ろ側(後部硝子体膜)は網膜にへばりつきます。硝子体自体は細い繊維のかたまりで構成されています。この硝子体の繊維は年々収縮していきます。それに伴い後部硝子体膜が引っ張られ、あるとき耐え切れずに後部硝子体膜が網膜からはがれてしまうのが「後部硝子体剥離」。このときに網膜と後部硝子体の癒着が強い部分があると、その部分の網膜が引っ張られて網膜に裂け目ができます。これが「網膜裂孔」です。網膜円孔、網膜裂孔をあわせて、臨床の現場では穴(孔と書くべきか)と言っています。もちろん正式な用語ではありませんが、我々臨床医は「穴がいっぱいあるから手術しんどいなぁ」とつぶやいたりしています。ここでは実際の臨床現場に即した文章をお伝えしたいと思いますので、ここからは2つをあわせて単に「穴」と表記します。英語ではretinal hole(レチナルホール) とretinal tear(レチナルテアー。ティアーじゃなくてテアーです)を含め、retinal break(レチナルブレーク)と呼ぶため、カンファレンスなどではもうちょっとかっこよくbreakと言ったりします。
網膜の穴が網膜剥離になるまで
穴ができると、そこから硝子体内の水分が網膜の下にしみこんでいき、網膜がどんどんはがれていきます。これが網膜剥離です。穴が形成された瞬間はもちろん穴しかないわけですが、診察を受けるときは当然そこから少しは時間が経っているわけで、ほとんどすべてのケースで、穴の周辺に網膜剥離が起こっています。穴の周辺のみがはがれていて、大きくはがれていないものを特別に「網膜剥離裂孔」と呼びます(円孔があってその周りがはがれている場合も、網膜剥離円孔ではなくて網膜剥離裂孔と呼んでいます)。どこまでが網膜剥離裂孔でどこからが網膜剥離かの明確な定義はないため、もし眼科で網膜剥離と診断された場合は、どの程度進行しているものなのか、主治医に聞いてみるのがよいでしょう。